通訳トレーニングが認知症予防になる理由

と書いて…棚の上から失礼します。

「通訳を介して」という表現にふれるたび、申し訳ないような、悔しいような気持ちがします。きっと凡庸な通訳に隔靴掻痒の思いをなさったのでしょう。本来の通訳なら「よほど通訳を入れた方がのびのび自分らしく日本語で話せて、英語でも伝わったという実感がある」と喜んで頂けるはずなんです。そう信じて大学に加え、横浜で社会人対象の通訳養成を始めました。

中心に据えているのが「言語の数学・音楽性」と「通訳養成の身体性」です。

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外国語学習や通訳に身体性、というと意外な顔をされることもあります。でも言語はアタマだけで処理するもの、とは思えません。脳機能局在論もどうも古い…あれはスポーツで言えば野球、ポジション固定型。生き物はもっとサッカーのように柔軟なのでは?各パートからそのときどきの適者どうしが連携するのでは?と体験から感じているのです。

私のユニークな実感に理論的な裏付けをもとめて、夏休みに岡崎の大学共同研究機構に生理研を訪ねました。そこで教えて頂いたのは、私の背側線条体(尾状核と被殻)が大きくなっているand/or機能が高まっているらしいということ。以来、わらしべ長者のように「ビジョウカク、ヒカク」と唱えていたら、こんな面白い論文が!

 

シャドウイングと同時通訳のfMRI実験でわかったこと

ジュネーヴ大学のエルヴェ=アデルマン教授たちは50人のイタリア語、ルーマニア語などを話す主にヨーロッパのバイリンガルに英仏語のシャドウイング、英仏語からの同時通訳をさせて、同時にfMRIをとりました。ほぼ同じところが活性化していたそうです。それが尾状核と被殻。しかも左右両側です。

これは右耳利きが言語処理に有利とする説に一石を投じそうです。

この実験のちょっとおかしなところはこのバイリンガルさんたち、全く通訳のトレーニングをしていないアマだというのです。シャドウイングと同通で同じ部位が活性化している、という報告なのですが、文中にあるとおりトレーニングを経たプロの同時通訳者なら同通で活性化する部位は小さくなるそうです。

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バイリンガルがアルツハイマー予防に?

Bilingualism confers a variety of cognitive advantages (Abutalebi et al. 2009; Diamond 2010), including improve non-linguistic executive skills (Bialystok et al.2012), and delaying the appearance of symptoms of Alzheimer’s disease. More recently, it has been proposed that the bilingual advantage arises from increased use of a more general “conflit monitoring” system in bilinguals compared with monolinguals (Costa et al. 2009; Hilchey and Klein 2011; Abutalebi et al. 2012b)

バイリンガルにはさまざまな認知的利点がある。たとえば非言語執行スキルが向上する、アルツハイマー型認知症の発現を遅らせる、など。さらに最近提示されたことには、こうした利点はバイリンガルはモノリンガルに比べてより頻繁に全般的な「衝突監視」システムを用いることに起因するというのだ。

英語を学ぶなら日常英会話より、はじめから通訳トレーニングでやるほうがいい。感覚がさえて、頭もしゃっきりすると思っていたところです!

The existing neuroimaging literature on SI is very sparse; only 1 PET study on 8 professional interpreters revealed activation in the left inferior frontal gyrus and the SMA during interpretation (Rinne et al. 2000; Tommola et al.2000)

同時通訳に関する神経画像は非常に乏しい。8人のプロの同時通訳を対象にしたPETが1点あるのみで、通訳中は左下前頭回と補充運動野が活性化することが明らかになっている。

All the regions involved in SH are also involved in SI, reflecting the common linguistic and executive demands of the tasks. Left inferior frontal gyrus regions additionally recruited during interpretation over SH include pars triangularis, known for its role in semantic processing (Dapretto and Bookheimer 1999; Bookheimer 2002), and pars orbitalis, implicated in semantic memory and cognitive control of memory (Badre and Wagner 2007)

シャドウイングにかかわる領域はすべて同時通訳にもかかわいる。これは両方のタスクに共通する言語・執行に関する要求を反映している。左下前頭回は同時通訳中はシャドウイング時より漸増するが、ここには三角部という意味処理を担うことで知られている部分、眼窩部という意味記憶と記憶の認知的コントロールにかかわる部分がある。

シャドウイングといっても日本の教室ではテキストを見たままスピーカー放送を聴いて「読経集団」状態のことも。テキストは伏せて、イヤホンで11の設定で聴きましょう。そうでないと同通につながる道になりません。念のため。

バイリンガル、認知全般にうれしい影響

A striking aspect of these results is the recruitment of the dorsal striatum (the caudate nucleus and the putamen).…Although the basal ganglia are often discussed in terms of their role in motor behavior, they play a central role in circuits known to subserve multiple, non-motoric aspects of cognition such as attention, learning and memory, and executive functions (Saint-Cyr 2003).

これらの結果で目を見張るのは背側線条体(尾状核と被殻)の漸増である。(中略)大脳基底核は運動における役割について議論されることがしばしばだが、基底核は注意、学習、記憶、執行機能といった認知の複合的、非運動的側面を下支えする回路でも中心的な役割を果たしている。

軽々に左脳、右脳にわける見方は疑問。

右脳を万能の魔法使いのように尊重するきらいもありますが、右脳だけではどうにもなりません。左右の連携こそが肝要。通訳の仕事では特に仲良く協力しているようで!

The bilateral nature of the findings we report here expand those of several previous reports cited above, in which the left striatum is principally implicated in tasks requiring multilingual language control (Klein et al. 1994, 1995, 2006; price et al.1999; Lehtonen et al. 2005; Abutalebi and Green 2008; Garbin et al.2010)There is also some indication from direct electrical stimulation that the dominant striatum (typically the left striatum in right-handed individuals) is involved in the control of speech production, with the putamen more implicated in the coordination of speech articulation , and the caudate involved in inhibition and selection, in monolingual patients (Gil Robles et al. 2005).

ここで報告する両側性の発見は、すでに引用したこれまでの報告を敷衍する。これまでは複数言語のコントロールを必要とするタスクには主に左線条体が関わるとされてきた。また、直接電気刺激による示唆として、優位の線条体(たいてい右手利きの人の場合は左線条体)が発話には不可欠で、被殻はより滑舌の協調コントロールに、尾状核は抑制と選択にかかわるとされてきた。ただしこれはモノリンガルの患者に場合である。

Consistent with this, our data indicate that the bilateral caudate nuclei and putamen are implicated in SI.

この指摘とも一致するが、我々のデータは同時通訳の場合、両側の尾状核と被殻が関わることを示している。

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Our results provide new insights into profound overlap between the neural bases of extreme language control and those of domain-general control of cognition and action. Indeed, recent evidence suggests that experienced simultaneous interpreters display enhanced cognitive flexibility compared even with bilingual individuals. (Yudes et al. 2011; Stavrakaki et al. 2012).

我々の調査結果が新たに示すのは、究極の言語コントロールを行うための神経的基盤と、全領域において認知・行動をコントロールする神経的基盤は深く重なり合っているということである。実際、経験豊かな同時通訳者はバイリンガルと比べても認知がより柔軟であることも最近証明された。

The recruitment of similar fronto-subcortical-cerebellar circuits during language and executive control provides powerful evidence that the continuous demands of language control in the multilingual brain, and associated experience-dependent plasticity, could underlie the nonlinguistic, executive advantages that have been observed in bilingual individuals, advantages that may also be protective in defying challenges posed by aging and even disease.

同様の前―皮下―小脳の回路が言語・執行コントロールにおいて活性化するということは次のことを確かに証明している―マルチリンガルな脳に対する継続的な言語コントロールの要求とそれに関連する経験に依存する可塑性が根底にあって、バイリンガルの人々に見られる非言語機能、執行機能の強み、加齢、疾病による困難に抵抗する際の保護になるような強みが成り立つのだ。

外国語を学ぶのは異文化を学ぶこと、と言いますが、それは認知レベルにとどまらず、生理レベルでも起きているということですね。異質に触れることで人間は磨かれる。バベルの塔が壊されてよかった!

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