「クワイ河収容所」バイリンガル読書会はまるで…

「クワイ河収容所」は元英連邦戦争捕虜のアーネスト・ゴードンさんの手記を、我が恩師、元ICU名誉教授の斎藤和明先生が訳されたもの。その手記と日本語訳を並べて読み進み、語り合い、聴き合おうという贅沢な読書会。

ねらいは2つ。目に見える戦争の記録から、いまもここにある目に見えない戦争に気づくこと。既成概念を軽ーく越える和明先生の英日翻訳のコツを学ぶこと。

初回はゴードンさん、和明先生が招いてくれたとしか思えないメンバーが集まりました。もちろん、ゴードンさん、和明先生もご一緒くださった気がしてなりません。

第一章、第一段落の日本語訳出だしを読んだEさんが言いました。

「やられました。もう、出だしで。だいたい翻訳ものは出だしでその後が推して知るべしです。でも、これは次の文、またその次と読みたくなります。」

それは…ここを訳したもの。みなさんはどう訳しますか?

I was dreaming, and I was happy with my dreams.

普通に訳した一例としてはこんなものでしょうか…

「私は夢見ていて、私は夢のことで幸せだった。」

和明先生は、もちろん全体を何度も読んでのうえで、こう訳されています。

「夢を見ていた。夢を見ていれば幸福であった。」

英語の代名詞をいちいち訳すな、とは通訳道場でもいつも言っていること。英語では顕在する代名詞は日本語では「ない」のではなく潜在します。

こんなのは序の口。

X above YといえばYの上にXと教わりますね。本当にそれだけでしょうか。これは次回。

英語を学ぶときに和訳を参考にすることはどこかやましいズルをしている気がしませんか。その和訳の味わいはいまいちで、ああ、この語が英語のこれなのね、と確かめる。もとの英文の語りの姿を再確認するまではいかない。中高生はそんな和訳の使い方をしていませんか。

でも、ゴードンさんの英文と和明先生の日本語訳は二枚看板。東大寺南大門の二体の金剛力士像のようでした。

次回は8月4日 横浜山手地区にて。人数に限りありますので、ご関心おありの方はお早めにお問合せください。

持続可能な社会のための通訳者 冠木友紀子プロフィール

Please follow and like us:
error

幕末横浜の「外国語」は?

ある中1のクラスでこんなことを耳にしました。
「日本語と英語は語順がちがいまーす。」(←間違ってる)
「英語は日本語と違って名詞の前にaとかtheとかつきまーす。」(←半端なこと言うな)

入門期に不適切に「差異」を協調するのってどうなんでしょうね。
あんまり英語を「外国語という壁」として示さないほうがいいんじゃないかと思いますけどね。

というわけで、英語の授業視察はなんだかんだ理由をつけてご遠慮しています。耐えがたきを耐え、忍び難きを忍ばなくてはならないから。

そもそも、幕末、明治初期の横浜は外「国」語という概念が薄かったようです。言語をナショナルなものとは捉えてはいなかったということです。

参勤交代のため、江戸はもちろん、横浜に近い東海道の宿場町もさまざまな地方の方言が飛び交っていました。当時、書き言葉に共通の文体はあっても、共通の話し言葉、いまの標準語のような言葉はまだなかったのです。( だからなんでもかんでも標準語にしか訳せない通訳者はちょっと居心地の悪さを感じてよろしいのです。)

どのくらいバラエティがあったかというと…たとえば標準語の「かまきり」も…

おがめ(岐阜・高知・佐賀・熊本・宮崎・鹿児島)
かまぎっちょ(茨城・栃木・埼玉・千葉・福岡)
いぼむし(宮城・秋田・山形・福島・新潟)
いぼくい(むし)(青森・岩手・千葉)
とかげ(!!)(埼玉・千葉・東京・山梨)
はらたち(群馬・千葉)
へんぼ(愛媛・高知)
ほとけうま(淡路島・徳島)
(「都道府県別 全国方言辞典」 佐藤亮一編 三省堂より)

これに
めあーんてぃす(英)
もーんと(仏)
ふぁんぐしゅれっけ(独)

が加わったところで「へえ?それが何か?」でしょう?

言葉は国家ではなく地元で共に暮らす人びとと結びついていたといえそうです。

そういえば、私たちのひいひいひい爺さん婆さんたちはきっと、自分たちを「日本人」だなんて思っていなかったでしょうね。「くに」といえば藩でしたから、「相模のひと」「会津のひと」という具合で。

昔も今も「この人の言っていることを理解したい」という願いが人を言葉に近づけるのだと思います。

さて、横浜といっても街中と違って日本人が体系的に英語と出会った場所がありました。さて、どこでしょう?それを次回以降ご紹介します。

持続可能な医療・農業・教育のための通訳者 冠木友紀子のプロフィール

Please follow and like us:
error