Steely Dan  Black Cowの歌詞を探検、訳詞で冒険

友に導かれて新しい世界に出会うのはなんとスリリングなことでしょう!

おちゃめなM姉さんからSteely DanのAjaというアルバムを教えてもらいました。全曲、あるいはこの2曲をとBlack CowとDeacon Blueの訳詩をお望みです。まずはBlack Cow(ルートビアにバニラアイス!どんな味やら。)から…とはいえ大変!ブログなどで訳詞を紹介する人たちは、ほとんどファンかそのジャンルの専門家。訳詞にも自信満々。英詩や日本語の専門家ではないでしょう。ところが私はその真逆。先月の今頃はSteely Danの名前さえ知りませんでした。聞いてみたら、あ、聞いたことある、というくらい。英詩と日本語表現にはうるさいですが、 Steely Danについてはからっきしです。 チャゲアスのことなら私が一番理解していると任じていますが、

そういうわけで、これが答えだ!ではなく問いを連発することになりそうです。50点の出来としてご海容ください。プラゴミじゃないと思います。

Steely Danの作品を聴いてみると…カッコいい、おしゃれ、クール、都会的、オトナ、洗練…そんな言葉が思い浮かびます。

細部まで計算しつくされた都会の建築のようで、心地よい流れはあるけれど、うっかりノリに流されることはなさそうです。

さて、Black Cowを聴いてみると…あれれ?歌のない時間が結構あるのね。第九とは対照的。「フロイデーシェーネルゲッターフンケントホターアウゼリージウム!」もう合唱で埋め尽くされています。それに比べるとなんて言葉少な…

歌詞を聴いておや?

単語は単純なものばかり。でもその組み合わせが文としては不思議。They saw your face.単語としては中1でもわかるけれど、Theyって誰?どんなface?

そう、説明しないのがニクい。形容詞がほとんどないんです。形容詞がありすぎると嘘くさくて、野暮で、レースだらけなりす下着みたいになりますが(自称芸術家の文章に多い)、こちらはスポーツ下着みたい。なんだかそっけない。聴き手に向けて説明するそぶりなし、と感じましたが、どうでしょう?

そもそも、語り手の男性と、相手の元彼女のような2人の間にも会話は成り立っているののでしょうか。どこかひとりごとのようにも聞こえます。

そして現在単純形ばかり。現在単純形は日は東から昇り、西に沈む、のように永遠に変わらない、反復することを切り取る表現。別に今だけのことじゃなく、何月何日、と具体化できる過去のリアリティもありません。ひとつのストーリーとしての始まりと終わりが定まらない…物語として語ろうとすると突き放される感じです。それが、どうもとんでもない状況をクールに奏でるこの曲に合っているように思いますが、どうでしょう?「君はグリーンストリートで大暴れしたらしいね」という訳を見かけましたが、これはお話を作りすぎかも。ジャーナリズムじゃないんです。また、a book of numbersを旧約聖書としているのも見かけましたが、これはthe book of numbers民数記と取り違えたのでしょう。a, theを甘く見てはいけません。電話帳を a book of numbers というのは普通ではありませんが、ここは語調、曲調からa phone bookでは字足らずです。

Steely Danの公式サイトから下に歌詞をコピペしますが…韻を踏んでいます。各スタンザごとに番号を振りました。韻を踏んでいるということは、音がテクニカルに単語選びを大きく左右しているということです。単語ごとに辞書を見ていてはらちが明きません。なんだか歌詞も楽器のひとつのようです。このひとたち、詞が先?曲が先?もしかしてメロディーラインが先?

また、公式サイトにご本人たちがこの曲について語っている動画もありました。「作品の説明なんかさせるなよ」とでも言いたげな様子です。この曲については30分くらいからどうぞ。それにしてもこの人たちの風体…

心をこめて訳そうとすると、自分の感覚で言葉を足しがちです。でも、元の詩のスタイルがモンドリアンのように幾何学的なのに、ご親切に日本語にしたらラファエルのようだったら…。自分の解釈を訳から全く排除することは願ってもできません。でも、そうしようと努め、それでも残る訳者らしさが信頼されるようでありたと思います。

Break away when it seems so clear that it is now over のところはまだ会心とはいきません…別れた女をどう呼ぶかも悩ましい…お目汚しでございます。日本語でも韻を踏み過ぎるとあざといのでちょっと外しました。放っておくと七五調になりますが、それは気をつけてひっこめました。

In the corner 1
Of my eye 2
I saw you in Rudy's 3
You were very high 2
You were high 2
It was a cryin' disgrace 4
They saw your face 4
On the counter 1
By your keys 2
Was a book of numbers 3
And your remedies 2
One of these 2
Surely will screen out the sorrow 4
But where are you tomorrow 4
I can't cry anymore 1
While you run around 2
Break away 3
Just when it 4
Seems so clear 5
That it's 4
Over now 6
Drink your big black cow 6
And get out of here 5
Down to Greene Street 1
There you go 2
Lookin' so outrageous 3
And they tell you so 2
You should know 2
How all the pros play the game 4
You change your name 4
Like a gangster 1
On the run 2
You will stagger homeward 3
To your precious one 2
I'm the one 2
Who must make everything right 4
Talk it out till daylight 4

I don't care anymore 1
Why you run around 2 
Break away 3
Just when it 4
Seems so clear 5
That it's 4
Over now 6
Drink your big black cow 6
And get out of here 5

ちらっと
見かけた
ルーディズにいたろ。
君、とてもハイだった
ハイだった。
泣けるほど見苦しくて
奴らが君の面眺めてて。

カウンターには
君の鍵、
そばに一冊の電話帳と
君の薬。
このどれかが確かに
悲しみせき止める
でも君、明日はどこにいる。

もう泣けない
君が遊びまわって呆けても。
縁を切るんだ
とにかく
どう見ても
もう終わりと思ったら。
でかいブラッカウ飲んだら
ここを出るんだ。

グリーン街へと
君は繰り出す
途轍もない姿で。
奴らもそう君に言う。
わきまえろ
プロの手を。
君、名前を改めろ。

ちんぴらが
逃げるように
君は千鳥足で帰る
大切なひとのもとに。
僕はといえば
ひたすら後始末。
話し尽くそう夜明けまで。

もう気にしてられない
君が遊び回っても。
縁を切るんだ
とにかく
どう見ても
もう終わりと思ったら。
でかいブラッカウ飲んだら
ここを出るんだ。

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【洋楽を深く楽しむ】See mercury falling in Lithium Sunset by Sting スティングの「リチウム・サンセット」、See mercury fallingは温度計か水星か

持続可能な未来のための通訳者、通訳道場★横浜CATS主宰、冠木友紀子です。「洋楽の訳詞が腑に落ちないけれど、原詩の解釈も?な楽曲をお知らせ下さい」とSNSで呼びかけたところ、さっそくKさんからコメントいただきました。

スティングSting のMercury Falling というアルバムに収録されているLithium Sunsetという曲についてです。この曲の最後のSee mercury fallingが「気温が下がってきた」とされているのを訝しんでおいでです。これは水星のことでは、とすでに自説もお持ちです。

あわてていろんな訳詞マニアのサイトを見て回ってちょっと肝を冷やしました。通翻訳は外国語ができるだけじゃだめです。ものを知らなければいけません。

結論から申します。水星で結構です。でも空の水星だけじゃありません。

温度計の中の水銀が下がる、ならthe level of mercuryでないと少し雑な感じです。また、この歌は疲れ切った魂の甦りの始まりを描いています。その歌の終わりで夕闇迫り来るとはいえ、8回も「気温が下がってきた」はお寒いです。

ただ、水星、とするにはひとつ気になる点がありました。mercuryのmが小文字です。標準的には、水星なら大文字ですが…まあ、字の大小はタブーというほどではありませんが。こういうときは、訳詞マニアのコピペ歌詞ではなく、スティングさんのサイトで確認するに限ります。

スティングさんご本人のサイト

おや、小文字だわ。

でも!その下のインタビューでスティングさんがこう言っています。
「これはレイクハウスで書き、録音した2枚目のアルバムです。こうしてずっと家族と一緒に家で過ごすのが僕には楽しかった。以前はホテルの部屋やコンサートホールで人生の大部分を過ごしてきたからね。だから、やっと現実の人生を生きている実感があったんです。子どもたちが午後学校から帰って来ると、家族揃って夕食をとったものです。ごく普通の家族のように。このアルバムタイトルにあるように、なにより私の水星的生活もバランスをとり始めて、やがて根を下ろそうとしていました。以前は「落ち着く」なんてクリエイティブにはとんでもないと決め込んでいたんですが、試してみたくなったんです。試す権利が自分にはあると感じてもいました。」

ここで「温度計じゃなくて水星」だ、と安心しては不十分です。「水星的生活」を理解するには、水星の動き、象徴的意味を知っていることが大切です。Mercury水星は俊足の商売の神様(merchant商人、メルカリmercariと同語源)。あちこちを駆け巡り、人と人、物の動き、コミュニケーションを促します。優秀な営業マンでしょうか。売れっ子ミュージシャンの生活そのものです。

つまり、mercuryは空の水星でもありスティングさん自身でもあるのです。そうなると小文字なのもうなづける気がします。大文字にしたらあの空の水星一点張りになりかねません。

スティングさん、真面目なキリスト者としても知られています。昨年、久しぶりにお目にかかった高校時代の数学のM先生が、バッグの中から雑誌のコピーをとり出し、下さいました。それはスティングさんの家庭生活をめぐるインタビュー記事。「このスティングさんという方は神様にも人々にも大変誠実で素晴らしい。感動したので皆さんにコピーを差し上げています。」とのこと。御年80に近い先生の眼差しは青年のようでした。

そのことも踏まえて歌詞を読むと、リチウムの真紅の炎のような夕焼けはまさに太陽になぞらえられる、キリスト存在とも思われます。大きな太陽が小さな水星を慰め、抱きとめる美しい風景が思い浮かびます。

リチウムや黒曜石のイメージの広がりも魅力的ですが、あんまり長くなるといけませんので、また別の折に。それにしてもIを我、俺、僕、オラ、おいどん、悩ましいこと。

Fill my eyes
O Lithium sunset
And take this lonesome burden
Of worry from my mind
Take this heartache
Of obsidian darkness
And fold my darkness
Into your yellow light

I’ve been scattered I’ve been shattered
I’ve been knocked out of the race
But I’ll get better
I feel your light upon my face

Heal my soul
O Lithium sunset
And I’ll ride the turning world
Into another night

See mercury falling…

満たせ、僕の目を
おお、リチウムの夕焼けよ
取り去れ、この憂いという
寂しい重荷を僕の心から。
取り去れ、黒曜石のように
暗いこの心の痛みを
抱きとめよ、僕の闇を
君の黄色い光のうちに。

木っ端微塵で、打ちのめされて
レースからも放り出された
でも、ここから僕は甦る
感じるよ、君の光をこの頬に

癒せ、僕の魂を
おお、リチウムの夕焼けよ
僕も巡りゆく世に跨り向かおう
次の夜へと

ごらん、水星が沈みゆく

Stay Home を英国プロのストーリーテリング、The Whispering RoadでEnjoy Homeに。そのまま語れる冠木友紀子の日本語訳小冊子と英語スクリプト(英国にもありません)がついています。

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