翻訳の仕上げは自分とのタタカイだ!

ここ3日ほど自宅にこもって翻訳の仕上げをしています。こんなことしてていいのか、と焦るときもあります。でも途中で放り出したらゴミになる。

実は、イギリスのINPP神経生理心理学研究所のサリー・ブライズ所長のロングセラー、The Well Balanced Child「動いて育つバランスよい子」の翻訳がまもなく出版されるのです。

私はもともと外国語習得、通訳養成の身体的側面に関心がありました。頭だけ使うお勉強だけの英語教育などうまくいかないのは当たり前です。

人は感覚を通し、身体と心を動かして学ぶ。

このことをもっと理論的にしっかり学びたいと願い、文献やネットを頼りにINPPを見つけたのは2010年のこと。さっそく2011年年初から渡英して、英国、海外のみなさんと一緒にサリー先生ご本人から学んできました。論文試験もなんとか合格し日本人初の準修士と認められてはや9年が経ちました。

サリー先生の本は文も長く、学術的。これがイギリスの若い親御さんたちに人気とは驚きます。

それにしてもいま、こんな本はなかなか日本にない…

そこで、難しい本を、内容をゆがめずに読みやすくするべくギリギリの調整をしています。

英語では難しくない医学用語もそのまま訳したら日本語ではゴツゴツ難しくなってしまう。(これは明治維新以来の問題)ああ、でもどうしたら…

本なんて、日本語で4時間しゃべったらライターさんがまとめてくれる…なんて思ったらやってられないような作業です。

どこがどう読み飛ばされるかなんてわからない。でも、どこをどう細かく読まれてもよいように準備する。

子育てに悩むお父さん、お母さん、小学校の先生のお顔が晴れますように。そう願うことでせっかちでなまけものな自分をなんとかなだめています。

持続可能な未来のための通訳者 冠木友紀子のプロフィール

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WHO新型コロナウィルス情報を日本語で②予防方法

持続可能な未来のための通訳者、冠木友紀子です。

新型コロナウィルス、中国では「新冠」っていうんですねえ。しんかぶ…私はふるかぶですが、他人とは思えません。ニイカップの皆さんいかがですか?

さて、昨日の続きです。2分7秒あたりからどうぞ。

【以下字幕】
「ではCOVID19の伝染経路は?精確な伝染の仕組みは未解明ですが、一般的に、呼吸器ウィルスは飛沫感染がお決まりです。感染者の咳やくしゃみや、ウィルスによって汚染されたものによって伝染します。

感染リスクが最大なのは動物と接点のある人々です。生きた動物を売買する市場で働く人々、新型コロナウィルス感染者を手当てする人々、たとえば家族や医療関係者です。

さて、どんな症状が出るのでしょう?これまでわかっているのは、症状は軽度から重度まで多様です。発熱、せきや息切れなどの呼吸器症状もあれば重ければ肺炎、腎不全、死に至ることもあります。死亡率はまだわかりません。

感染したかどうかはどうしたらわかるでしょう?感染を診断するのはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)というテストです。このテストは遺伝指紋をもとにウィルスを特定します。目下、このウィルスに特効薬はありません。手当ては支持的ケアです。今は防御効果のあるワクチンもありません。手当てもワクチンも開発途上です。

伝染を防ぐにはどうしたらよいでしょう?このウィルスが蔓延している地域は限られていますが、標準的な衛生管理手法の多くが、感染とさらなる蔓延を防ぐために推奨されています。たとえば、口と鼻を医療用マスク、ティッシュやひじを曲げて覆ってから咳やくしゃみをする、体調のすぐれない人に近寄らない、マスクなどの個人用防護ツールを使う、特に医療施設では定期的に石鹸と水で手を洗う、アルコールベースのハンドジェルを使うなど。

動物からの感染を避けるには動物との不要で無防備な接触を避ける、動物や動物由来の製品に触れたら手を洗う、動物由来素材はしっかり火を通してから食べるなど。

肝心なのは体調がよくないときは家にいることです。ただ、熱、せき、息苦しさを覚えるなら、医療ケアを求め、旅行歴を医療者に伝えましょう。

ここまで手短に新たな感染症についてお話ししました。急速に蔓延していることを考えると、このウィルスに関する知見も変わり得ます。最新情報は次のサイトでご覧ください。」

よろしかったら私のプロフィールもご覧ください。
持続可能な未来のための通訳者 冠木友紀子のプロフィール

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WHO新型コロナウィルス情報を日本語で①コロナウィルスって何?

新型コロナ…?新型クラウン?懐かしい車を思い出してしまいました。あれ?トヨタはコロナとクラウンを両方持っていた?同じ王冠って意味でしょ?不思議ですねえ。

まあメディアを見ていると「蔓延」「不安」などセンセーショナルな言葉が飛び交います。でも「自分でできること=健康維持+無敵の思想(これ大事、別稿にて)」と「確かな情報」をもとに心静かに過ごしたいものです。

そのためにも頼りになるのがWHOやCDCの情報のはずですが、WHOのサイトは日本語訳が用意されていません。 ビデオは字幕を受け付けてもいません。

そこで、まずは2回にわけてWHOのビデオに簡単な日本語訳をおつけします。WHOには字幕のオファーをしたのですが、返事はまだです。著作権蹂躙の意図は全くありません。問題があれば教えてください。

2回に分けるのは長くなるからです。お役に立つ部分は後半に集中しています。次回(明日)お楽しみに。

【前半字幕】
2019年12月、中国で一群の肺炎患者が見つかりました。調査すると原因は未知のウィルスでした。 今ではCOVID2019と呼ばれています。

本ビデオではこのウィルスについて現時点での理解を手短かに紹介します。 ただこのウィルスは新しいので、 見解も先々変わりうることをご承知おきください。

コロナウィルス群はウィルスの群れとしては大きく、 中核に遺伝形質があり、 そのまわりの皮膜にはタンパク質のスパイクがついていて、 王冠のように見えます。

王冠をラテン語で言うとコロナなのでコロナウィルスと呼ばれます。コロナウィルスもさまざまですが呼吸器、ときには消化器に発症します。
呼吸器症状はよくある風邪から肺炎などがあり、ほとんどの場合軽度です。

ただ、重症化するものもあります。

SARS(重症急性呼吸器症候群)のコロナウィルスが初めて特定されたのは2003年、中国でのこと。MERS(中東呼吸器症候群)のコロナウィルスは2012年、サウジアラビアでのことでした。

COVID2019が初めて見つかったのは中国の肺炎患者においてでしたが、この人たちは魚介と生きた動物を扱う武漢の市場に縁がありました。やがてこの病気は体調を崩した人々から家族、医療関係者へと広がりました。いまでは患者も増え、病気も中国国内はもとより多くの国に広がっています。

いったいこのウィルス、どこから来たのでしょう?わかっているのは、コロナウィルスは多様な動物たちの間を巡り、ときには動物から人間にジャンプするということです。これはスピルオーバー(あふれ出し)と呼びます。要因は、ウィルスの突然変異や人間と動物の接触増加などさまざまです。たとえば、MERSコロナウィルスはラクダから、SARSコロナウィルスはジャコウネコから、と言われています。COVID2019の源がどの動物かはまだわかっていません。

持続可能な医療・農業・教育のための通訳者 冠木友紀子のプロフィール

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バレンタインは「〇理」チョコで

もうすぐバレンタインデー。すごいですね、スーパーもデパートも駅のコンコースも臨時チョコ出店だらけです。

日本のバレンタインデーの起源は神戸のモロゾフだ、いやちがう、とか、誤訳のせいだ、とか諸説ありますが、長いこと、女子から男子にチョコを贈るという世界でも珍しいイベントでした。義理チョコなんていうのもあったり。でも、このごろは自分で食べるために買う人も多いそうですね。

2月14日はカトリックでは恋人たちと結びつきのある日ですが、別に女子→男子ではありません。一説によると、ヴァレンタインデーの由来である司教ヴァレンティヌスはローマのクラウディウス帝に迫害されても棄教せず、妻帯を禁じられていたローマ軍の兵士たちに結婚式を執り行っていたそう。こりゃ、絞首刑にされますな。

イギリスのリーズ大学の女子寮では、お互いに日ごろの友情を感謝する手作りのカードを交換しあったものです。お菓子はナシ。私は筆ペン習字と折り紙で、お金かかりませんでした。

さて、チョコを贈るならこちら、ドイツのゲパ社がおすすめ。本命でも義理でも「倫理」にかなうチョコです。

はじまりは、一昨年、輸入代理店のおもちゃ箱さん主催のブランドセミナーでの出会いでした。インドネシア出身のブランドマネージャーさんのお話に耳を澄ませ、通訳しながら、感激してました。

製造のどの部分をとっても正真正銘、誠実、まっとう、倫理的なんです。

ゲパ社は契約カカオ農家が現地の理に適った無理のない方法で栽培できるよう支援。トラブルがあると契約を破棄、ではなく一緒に問題解決にあたります。フェアトレード以上の条件で取引をし、長期にわたる信頼関係を大切にしています。カカオのみでなく、ナッツ、フレーバーにも同じ行動基準を掲げています。略奪に依存する金儲けとは無縁です。

大地からも人からも略奪せず、お互いを友として長く大切にする。私はそんなゲパ社が大好きです。お金を使うことが、ただモノの入手だけでなく、どこか遠くの誰かの応援、幸せにつながる。うれしい買い物です。

おもちゃ箱さん ゲパ ページ

持続可能な未来のための通訳者 冠木友紀子のプロフィール

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原因不明の病でこそ、新たに生まれ変わる

持続可能な未来のための通訳者、冠木友紀子です。

医療の症例検討会の通訳をしていると、ふと思うことがあります。

病には因果関係で説明がつくものと、つかないものがあると。

そりゃ、大酒を飲み過ぎて肝硬変になった、さんざんタバコをすって肺がんになった、などはまあそりゃそうだ、と思います。

でも、一滴もお酒を飲んでいないのに、タバコも吸ったことが無いのに、同じ病を得る方もあります。

因果関係がはっきりしないと、なおさら不運だったように思えるものです。

ある若い友人がうつ病になったときのこと。大切に育てられた彼の成育歴に「原因」らしきものは見当たりません。

すると、周りの人たちは本人がいないときに「あいつは甘やかされて育ったんだ」「世間体のいい家庭の中は本当は冷たいんだ」などと言い出したのです。まるで「恵み」まで疫病神扱いするように。私はこれに強い違和感を覚えました。

そして、病には、大酒のみの肝硬変のように過去からやってくるものと、彼のうつ病のように未来からやってくるものがあるのでは、と感じたのです。

未来からやってくる?

そう。過去が悪かったわけではありません。今も十分幸せ。でも今生の自分のつとめに今後出会うためには、今のままではちょっとおぼつかない。

そんなときに未来からの鍛錬として病が与えられることもあると思うのです。

世の中の流れから置いて行かれたような気持ちになり、死を想い、どん底を見る。生きながらこれまでの生を振り返る機会に恵まれて、甦る。そう、魂が病という体験を経て甦る。そんなこともあると思うのです。

うつだった青年は錆びやすく柔らかい鉄のようでしたが、いまでは鋼鉄のようにすっきりたくましいおじさんです。何年もかかりました。でも、あの体験がなければ今の自分はないと言っています。

病気になった自分を責めることはない。因果関係ばかりに説明を求めることもない。

今を抱きしめる。未来からの導きに任せる。

まあ、大酒のみ、ヘビースモーカーのみなさんは少し自分の健康を気にしてください。

どちらも猫はあたりまえのようにできているようですが。

持続可能な未来のための通訳者 冠木友紀子 プロフィール

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旅先の洗濯、おすすめはマグネシウム

旅先での洗濯に困ったことはありませんか?

私もそうです。通訳で出張するたび、国内外を問わず洗濯には困りました。

洗濯しないですむよう沢山の衣類を持ち歩くより、少しずつ洗濯しながら身軽でいたい。使った靴下や下着をいつまでもそのままにしておきたくない。

でもホテルのクリーニングはちょっと不安で割高。携帯用の洗濯洗剤は手洗いには多すぎるし、すすぎが大変。ホテルのボディーソープはなんだか心もとない…

そこで今使っているのは、地元の自然食品やさんで見つけたマグネシウム。

昨日、NHKでも紹介されて話題になっているようで。

普段、家の洗濯機で3個使っていますが、しばらく洗濯機を眺めているとぞっとするほど水が汚れてきます。出張にはこれを1つだけ持ち出します。

マグネシウム洗剤、まぐちゃん。レモンはサイズのご参考の為。

しくみは、マグネシウムが水と反応すると水素が発生して、界面活性剤の役割を果たすというもの。化学式で書くと、2H₂O +Mg→Mg(OH)₂+H₂のようで。

なによりすすぎが楽、柔軟剤もいりません。水質も選ばないようです。先日もブータンの水で満足な洗濯ができました。

まぐちゃんのサイトはこちら。

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ブータンの風呂水事情に思う

「え、冷たい…」
ブータンの首都ティンプーでも評判のホテル。通訳兼雑談(リサーチ)の仕事を終え、ゆっくりあったまって、シャンプーをして寝ようとしたものの…!浴槽にうっすらお湯を張ったところで蛇口からは冷水が。しかも泥の色がついています。やむなく湯あみだけして、洗髪は翌朝に持ち越しました。

他の部屋に泊まっていた同僚たちも同じ場面に遭遇していました。

「前はもっと大変だったのよ。」
「少しずつよくなっているから、もう暫くしたらちゃんとするはず。」
そんな声も聞こえてきます。

でも、私は違和感を覚えました。

よしとされる変化の方向が西洋的過ぎる。

用意されたあまりに西洋的な入れ物は、ブータン地元の中身にあっていない。

いいんです、水量を増やさなくても。そのかわり、西洋的なのっぺりとした浴槽ではなく、径が小さくても高さのある木製の浴槽を用意する。水量の限界を明示して、入浴方法を提案する。つまり、お客さんが地元の事情を理解し、予測しながら使い方をコントロールできるようにする。

確かにホテルは西洋的な施設です。その設備をアジアにすべて導入するには無理がある。半端になる。それが「劣っている、遅れている」と誤解される。追いつこうと頑張る。地元の文化が見えなくなる。悪循環です。

西洋的にちゃんとしたところで、来るのは西洋コンフォートゾーンを期待する人たち。

かつて、コペンハーゲンの空港で某日系フィルムメーカーのドイツ出身職員の方に話しかけられました。しばらくカメラの話題で盛り上がった後、この方は言ったのです。
「日本はいいよね。まだ西洋だから。アジアは無理。」
えー!!!!東京しか見てないでしょ、と言うと、まあそうだけど、とのことでした。

その次に来るのは価格競争でしょう。だめだめ、そんなの。



なんでもブータンには焼き石を活用した伝統的な薬湯があるそうではないですか。シティホテルでこれは無理としても、形骸的に西洋を追うことはしないでほしいと願います。

The hot stone bath at Amankora Gangtey (Credit: Adam H Graham)
http://www.bbc.com/travel/story/20150506-soaking-in-a-unique-bath-culture



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「外国語」なんてない。すべては方言。

外国語なんてない。国の間には人間が作った国境がある。でも言葉のあいだにはそんなものはない。ブータンに来てそう実感しています。

ここのところ、大学の同僚のコロンビアご出身のスペイン語の先生と語源について盛り上がっていました。sacred, さくら、酒は通じるんじゃないの?なんて。

東洋の語源学は定説が少ないことを承知で、いろいろ勝手なことを言っています。それでもわりとまじめに、サンスクリットを学ばなくちゃね、と言い合ったりもしていました。

そこへインドヨーロッパ祖語のゆりかご、ヒマラヤ近くのブータンへ出張です。あまりにタイミングがいい!

今年は雪が少ないそうです。

ブータン地元の言語はゾンカ語。インドヨーロッパ系ではありませんが、これがびっくり。数の数え方、いち、に、さん、し、ごはチッ、二、スム、シー、ガッで日本語とほぼ一緒。本をあらわすキタップはアラビア語の単語と同じです。水はチュ、みたいな感じで、これは中国語のシューエ、日本語のスイにつながるでしょう。

きっと世界にはご先祖様みたいな言語がいくつかあったのでしょう。それが山、谷をこえていろんな方言になった。

外国語なんてない。どれも親戚の方言。ちょと顔の似ているイトコやハトコ。

もし、日本の子どもたちに、アジアの言葉にそんな親しみを覚える機会があったら…

いまは全員で土の匂いのしない、興趣ない英語を国際語が将来の役に立つとと称して学んでいますが…下心と打算は退屈だわな。

せめて英語に1年つきあったあと、中学2年時に諸言語に幅広く出会う機会を!と願います。
持続可能な未来のための通訳者 冠木友紀子プロフィール

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「赦されて在る」を翻訳で体験する

さる13日「『春と修羅 序』との再会」と銘打って、賢治の詩に向き合う贅沢なイベントを開きました。

読むと言ってもふだん私たちは本で文字を追うだけになりがち。具体的な散文ならともかく象徴的な韻文はこれでは歯が立ちません。「なんかわかった気がする」「なんだかよくわからない」で終わりがち。そこであえて英訳を通した深読みと言語造形を通すことにしたのです。導き手は平安時代の歌論がご専門のパトリック・ヘラー先生と大阪からお招きした言語造形の諏訪耕志先生。

はっとする再発見が続く中、こんな声も聞こえました。

「もとの日本語なら自分なりに感覚的に味わえていたのに、英語だとわかりにくい。なぜわざわざ英訳したのか。」

面白い!

なみいる参加者はプロとして通訳、翻訳にあたろうというツワモノばかり。そのなかからこういう根源的な問いが発せられるのは興味深いです。なにより忌憚なくものが言えているのがうれしい!

なぜ訳したのか、はそれぞれの訳者に訊いてみなければわからない動機もあります。

それは脇に置くとして、わたしは2つのことを思いました。

①日本語は母語であるがゆえに自分に甘くなっていないか。
感覚的にとらえている、というのは自分の好みにあわせて読んでいるのではないか。

②訳す、とはつらさ、謙虚さ、赦されてあることと不可分ではないか。
訳す、つまり外国語での表現を1つにしぼることは、ひとつの語、フレーズが持ちうるさまざまな意味のなかから、どれかひとつを主役に選び、他をわき役にすること。たとえば「こころ」はheart, mind, soul, spirit, feeling,いろんな顔がある。ぜんぶ引きずるわけにはいきません。ひとつふたつ選ぶことで、選ばなかった他の選択肢が、申し訳なさと共にかえって鮮明に見えてくるのです。日本語ですうっと読んでいてはこの苦しみはありません。さまざまな側面に気づかないままのこともあります。

翻訳するには、たいていのひとが読み飛ばしそうなところまで、この苦行のようなステップを繰り返します。「読み飛ばしているのに勝手に分かった気になる」は大いに防げるでしょう。

文学の訳は深く読む喜びと選ぶ哀しみを伴います。個人的に手元に納めておいたほうがよいのかもしれません。

ただ、それが求められて世に出るとなったら、訳した者はなぜそう訳したのか選びの過程をきちんと示し、批判に開かれてあること。読むものは感謝と寛容を忘れないこと。

このふたつが成立すると訳者としては「赦されてある」境地を味わうことになるのでしょう。 趣味を超えて、生きることの縮図のひとつを体験できるのでしょう。

このことをまさに宮沢賢治自身が「春と修羅 序」のなかで言っています。

「これらについて人や銀河や修羅や海胆は
宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら
それぞれ新鮮な本体論もかんがえましょうが
それらも畢竟こころのひとつの風物です
ただたしかに記録されたこれらのけしきは
記録されたそのとおりのこのけしきで
それが虚無ならば虚無自身がこのとおりで
ある程度まではみんなに共通いたします
(すべてがわたくしの中のみんなであるように
みんなのおのおののなかのすべてですから)

宮沢賢治「春と修羅 序」より

そんな思いから、私は今年は宮沢賢治とカリール・ジブラーンに向き合います。

ゲーテもこんなふうに言っています。
Wer fremde Sprachen nicht kennt, weiß nichts von seiner eigenen.
外国語を知らぬ者は、自らの言語も知らない。
( Maximen und Reflexionen; II.; Nr. 23, 91 )

持続可能な未来のための通訳者 冠木友紀子のプロフィール

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クリスマスソング、Joy to the worldに込められた英国自由人の願い

日本語では「もろびとこぞりて」の詞で知られるあのメロディー。パン屋さんのケーキCMでTVでもよく耳にします。

昨日の投稿では「もろびとこぞりて」はJoy to the worldの日本語訳ではないことをご紹介しました。変なこともあるものです。

さて、英語で歌えるとまた盛り上がるJoy to the world。英語詞はアイザック・ウォッツ(Isaac Watts 1674ー1748)が、詩篇98篇をもとにアレンジしたものと言われています。この詩篇では、神をこの世の王とし、その即位を大自然も喜ぶとしています。

アイザック・ウォッツの肖像

このウォッツという人、ケンブリッジかオクスフォードで学びたいと望んだものの、許されませんでした。当時のオクスブリッジは英国国教会会員に限定されていたのですが、ウォッツはCongregational、つまり会衆派(組合派とも)とよばれる国教会ではないグループに属していたためです。

そこで別の学校で神学、ヘブライ語、ラテン語、ギリシャ語を始め、当代一の教養を身につけたそう。

ただ、ウォッツは会衆派にこだわったわけではないようです。ひとつの教派の中にとどまり、似たような価値観をもつ限られた人々を相手に説教をするより、外に出て、天地の仕組みを探求し、人々と共に学ぶことを選び、楽しんだと言われています。ずいぶん自由な人だったのですね。

Joy to the Worldにも派閥、分別の愚から自由な者たちの喜びが願われているようです。

あと180年遅く生まれていたら、ルドルフ・シュタイナーと話が合ったかもしれません。

クリスマスおめでとうございます。

以下、ウォッツの詞と私の訳です。中学生のみなさん、使役動詞のおさらいですよ。let S Vは「Sが望む通りVするにまかせる」。make S to Vは「有無を言わさずSにVさせる」です。後者の方が実現まで距離があるのでVにtoがついているのもうなづけます。

Joy to the World; 
the Lord is come!
Let earth receive her King!
Let ev'ry heart prepare Him room,
And Heaven and nature sing.

Joy to the earth,
the Savior reigns!
Let men their songs employ;
While fields & floods, rocks,
hills & plains
Repeat the sounding joy.

No more
let sins and sorrows grow,
Nor thorns infest the ground;
He comes to make his blessings flow
Far as the curse is found.

He rules the world
with truth and grace,
And makes the nations prove
The glories of His righteousness,
And wonders of His love.

喜びを世に! 主、来たりしゆえ
大地がその王を受け入れるにまかせよ
めいめいが心に王の部屋をととのえるにまかせよ
天と自然界が歌うにまかせよ

喜びを大地に! 救い主は君臨したもうゆえ
人々が声を挙げて歌うにまかせよ
そのとき、陸や海、岩や丘や野も
くり返しその喜びを響かせる

もう罪と悲しみをのさばらせまい
いばらを大地にはびこらせまい
主は来ませリ、その祝福を絶えず巡らすため
呪いが見いだされるところまで

主は世を治めたもう、まこととあわれみによって
そして国々に証しさせたもう
さかえある主の義と
驚くべき主の愛を

(冠木友紀子 イメージ順尊重試訳)

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