ベテラン通訳者が頭打ちを乗り越えるには

S子さんはベテランの英日通訳者さん。ドイツ語も1級ですから、私も大いに見習わなくては、と思っています。さぞヨーロッパ関係のお仕事でご活躍のことでしょう…と思ったら。

忙しい、は忙しいのだそうです。何に忙しいのかと聞いてみれば、事前準備に忙しいとか。大いに結構。プロ通訳者の仕事の8割は事前の準備と信頼関係づくり。そこがアマとの違いですから…え、そうじゃない?

なんでも、まるで違う分野の新規クライアントの勉強に追われているのだそう。

それってつまり…リピートが少ないということ?

それはつらい。お悩みはそれだったのですね。

常連さんがついてこそ、同じ時間をかけた準備でも深く細やかなものになる。その分野の定訳を積み重ねられるようになる。これって通訳が終わっても続く貢献。

なぜマジメそのものものS子さんにリピートがつかないのかしら…

S子さんの通訳録音を聴いて10秒で突破口が見えました。

日本語の語りを磨いてこそストーリーテリングも通訳できるんです!

英語もドイツ語も100%聞いて分かる。でもそれを訳した日本語は「しかしながら」「-というもの、でしょうか」といった通訳独特の変な言い回しが多く、呼吸は浅く、喉声でした。違う人物を訳しても口調は1種類。

クライアントはそれにずっと耳を澄ませなくてはなりません。これは疲れる。その結果、 リピートにつながらない。

S子さん、日本語の語り手としてのトレーニングが足りなかったのです。足りない、というより要素として意識していなかったのです。

S子さんはご実家も洋風好みでお父様は海外駐在も永く、小さい頃からお家には海外からのお客さまも多かったとか。小さい頃から英会話教室に通い、大学はドイツ語専攻。すてきなお嬢様だったようですが…生活習慣も価値観も西洋寄り。

自分の日常生活を超える、プロの、芸としての日本語をまだ仕込んでいなかったのです。

でも、日本のクライアントが通訳者から受け取るのは日本語がメインです。大いに磨くべきでしょう。

日本は話芸の宝庫です。私は通訳者のみなさんに落語に行くようおすすめします。ひとりで沢山の声を持ち、多くの人物を演じる落語家から学ぶことは大いにあります。また、見習い、前座、二つ目、真打の違いを耳で感じる機会でもあります。自分の通訳がちゃんと真打レベルをキープしているか確認もします。

通訳者の方向けの個別レベルアップコンサルティング、始めます。

通訳者 冠木友紀子のプロフィール

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仏像を英語で案内するなら

講座の通訳をしていると、あいまに休日の観光案内もご一緒することがあります。

先日も京都にご一緒させていただきました。さすが、京都のお寺はインバウンドの方たちでにぎわっています。タクシーで移動中、アメリカからの講師の先生から訊かれました。

「そういえば、講座が始まる前の日、京都駅の近くを観光したんだけれど…ええと、あれはどこだったかしら。すごく変わってて、おんなじような小さい仏像がずらーっと並んでるところ。普通違うわよね。」

ああ、それは三十三間堂。ずらーっと並んでいたのは千手観音Sahasrabhuja。「普通の」とおっしゃるのは、 ボスが真ん中にいて、左右に2体サポーターがいて、さらにその周りに警備員…のような、でしょう?それは 三尊形式(中尊と脇侍二尊から成る)というそうですよ。

そう。通訳者にとって医学に引けをとらず勉強しがいがあるのが仏教です。事前準備が必須です。

お寺に行ってその場で説明を英訳すればいいや、最近は説明も英語になってるし、なんて慢心はいけません。薬師如来はMedicine Buddhaあたりでごまかせたとしても、阿弥陀如来はどうします?阿弥陀って何?!如来と菩薩の違いは?持国天の天はheavenでいい?(良いわけない!)

その場であわてるのはもったいないです。

仏教の言葉は奥深くて、サンスクリット語、ヒンズー教、中国語、日本仏教がミルフィーユのように重なっています。あまりに面白くて通訳の準備だったことなど忘れるくらいです。そう、そんなこと忘れて没頭したほうがよいのです。

本当にきりがありませんから、今回は高校生の修学旅行にもおすすめの「これだけは」の分だけをご紹介します。アクサン記号がうまく出なくてちょっと困りました。長母音は母音字のあとに「-」をつけました。

  • 仏像の4種類(部)
    • 如来 tatha-gata
    • 菩薩 bodhisattva
    • 明王 vidyaraja
    • 天 deva
  • それぞれの部のメンバー
    • 如来
      • 釈迦如来 Sha-kyamuni / Buddha
      • 薬師如来 Bhaisajyaguru / Medicine Buddha
      • 阿弥陀如来 Amita-bha / Buddha of Infinite Light
      • 大日如来 Maha-vairocana
    • 菩薩
      • 弥勒菩薩 Maitreya
      • 聖観音菩薩 A-rya-valokitesvara
      • 十一面観音菩薩 Eka-dasamukha
      • 千手観音菩薩 Sahasrabhuja
      • 文殊菩薩 Manjusri-
      • 普賢菩薩 Samantabhadra
      • 地蔵菩薩 Ksitigarbha
    • 明王
      • 不動明王 Acalana-tha
      • 五大明王
      • 降三世明王 Trilokavijaya
      • 軍荼利明王 Kundali-
      • 大威徳明王 Yama-ntaka
      • 金剛夜叉明王 Vajrayaksa
      • 愛染明王 Ra-gara-ja
      • 梵天 Brahna-
      • 帝釈天 Indra
      • 持国天 Dhrtara-stra
      • 増長天 Viru-dhaka
      • 広目天 Viru-pa-ksa
      • 多聞天 Vaisravana

こちらの本、おすすめです。「仏像バイリンガルガイド」バイリンガルで、コンパクトなのに内容も充実していてイラストも綺麗。おみやげにプレゼントしても喜ばれます。



お寺にも花のあふれるこの季節。よい週末をお過ごしください。

通訳道場★横浜CATS 第5期




  

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医療通訳の準備に思う、患者は忍者?

通訳は専門用語をきちんと把握していることが必須です。

専門用語という「点」が頭に入るには、点と点をつなぐ線、専門領域という「面」を理解することも必要です。ただの単語暗記では思考の流れについていけません。

なかでも準備にきりがないのは医療の通訳。日進月歩の技術とともに新しい言葉も生まれ続けています。

そんなとき、ふと気になるのがごく当たり前の言葉。

たとえばpatientは「患者」でいいのでしょうか。

話し手の頭の中の景色を聴き手の頭の中で再現するのが通訳

個人的には患者の「患、わずらう」という字がなんだかフナムシみたいで…具合の悪いときには見たくない気がします。

語源によると、patientはまさに「耐え忍ぶ」。(インパチェンスimpatienceという花がありますが、種に触ると弾けて飛ぶ様子が「不」「忍耐」というわけです。)

patientは「患う者」ではなく「忍ぶ者」、なんと「忍者」ではありませんか。身体の状態ではなく、心のありようを表しているように思えます。

と、こんな寄り道も準備の楽しみのひとつです。

通訳道場★横浜CATS 第5期 ご相談承ります

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その通訳が伝わらない理由

「違う!それは文化の違いじゃない。」カナダと日本のディスカッションを訪問し、振り返りに参加したときのことです。

カナダ側が「日本のみなさんは思いがけないところで他人事のような返事をする。」とこぼしました。日本人通訳者の方も「そうですね。日本人は変化に慎重ですからね。」と同調しています。

違うでしょ!

私はずっと気になっていました。私より一回りほど上らしいこの男性は、標準語書き言葉で話し、shouldをことごとく「べき」と訳していたのです。

たとえば、日本側が費用を理由に変更を渋った時、カナダ側が少々苛立ってIt shouldn’t be so expensive.と言いました。「そんなに高いはずがないでしょう・高いわけじゃないでしょう・高いはずがない」=そこはケチる所じゃないだろう!!!と感情チャージはフォルテッシモ。

その日本語訳が…「そのことはそれほど高価であるべきではありません。」

え?なんだその通訳口調は。どこの誰に言ってるの?何のことを?

日本側の返答はこうです。「まったく、おっしゃるとおりです。」

おいおい。生硬な通訳のせいで「日本人はにやにや同意していながらちっとも行動をとらない。わけがわからない。」という不満や誤解につながりかねません。

もし「そんなの高いわけがないだろ。」と伝わっていたら…

「高いとは言っていません。ただ、ほかにも緊急で費用が必要なところがあるんです。タイミングの違いです。優先順位はこっちで決めさせてもらいたいですね。」

「じゃ、いつごろ…」

こんなやり取りもありえたのでは、と思います。

「should=べき」のように単語を1対1対応させる昔の学校英文和訳は脇へ置きましょう。語は文脈のなかで色合い、ニュアンスが決まります。文脈を把握したうえで適切な訳語を選ぶのはAIでもなかなか苦労するところ。

音楽でいえば、同じ音高のオタマジャクシでも、フレーズによって響きが違うはずです。自動演奏が演奏家に適わないのはそこでしょう。

生人間、生きているうちにがんばりましょう。楽しみましょう。

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通訳者が展示会に出かける理由

お台場のビッグサイトで開かれているバイオマス展に行ってきました。商談アテンド通訳の仕事?いえいえ、違います。純粋にお客さんとして行ってきました。これも大事な通訳準備なんです。しかも今回はヨーロッパ視察旅行の旅の仲間も日本各地から再集結。現場をもつ専門家と展示会に行けるなんてとてもありがたいこと。

私が通訳者として展示会を重宝する理由は2つです。

バイオマス関連の資料をこんなに沢山入手!

まず、通訳を担当する専門分野、業界を一望できること。展示会には日本を中心に世界各地から第一線の企業が集まります。一社ずつ会社訪問したら旅行だけで大変なことになります。それが何百社と一堂に会して、しかも営業担当の方が控えていて、資料も無料でもらえるんです。

今回は専門家の方の見方を伺うこともできたので、とても勉強になりました。

もうひとつの理由は、通訳者の働く様子を見て、通訳道場で提供するサポートの参考にすること。

展示会での通訳は社員があたることが多いようです。なかには「スミスさんは~とおしゃっています。」と間接話法で話している方も。これはとても疲れます。でも社員として発言を求められる場合もあるので、I=私=自分を指す普段のモードでいないとまぎらわしいのでしょうね。ふむふむ…。そうだ、あれを作ってみよう。

別の展示会ではええっ、と思うこともありました。ドイツのとある企業は日本の通訳エージェントでドイツ語の通訳を手配していました。よし、通訳してもらう側の気分を味わってみようと通訳をお願いすると…楚々としたその女性は控えめに「私、この分野は専門ではないもので…」

専門分野を勉強していないと言うのです。準備が不十分かもしれない、ではなく準備していない、と言うのです。

だめだこりゃ。

依頼主の仕事に敬意と愛着、応援したい気持ちを抱いていれば、その専門分野を勉強せずにいられないと思うんですけどね。

仕事は他者のため、誰かを喜ばせるため。通訳者が学ぶのも他者のため。

いつか、おお、この人はすごい、弟子入りしたい、と思える通訳さんに出会いたいものです。

通訳道場★横浜CATS 第5期は5月から

 

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ボランティア通訳さん、日本語の連語に気をつけて

外国語ができることときちんと通訳できることは別のことです。

それでも、外国語、英語ができる人に通訳を頼む人は後を絶ちません。本来、断っていただきたいところです。

先日も「グループのなかの英語ができる人が通訳をしたけれど、なんだかわかりにくかった。訳し直してほしい」という相談を受けました。

録音を聞いてみると…明らかになったのは、このアマチュア通訳さんの聴く力と記憶する力の不足です。無理もありません。聴く力と訳出するまで記憶する力は通訳訓練で鍛えるのですから。

それらの力が不足すると、聴きとれたもの、覚えていられた単語をよすがに自分の憶測で埋めたくなるのです。

この録音、講師がdistort the memoryと言った場面がありました。

このフレーズではmemoryのほうがおなじみの単語だったのでしょう。アマチュア通訳さんは「記憶」と迷いなく訳しました。ところが、そのあと「薄れる」と続けたのです。

これは日本語の連語、コロケーション=語の組み合わせ、に引っ張られたのでしょう。東日本大震災以降、「記憶の風化」「記憶が薄れる」というフレーズがあちこちで聞かれました。

でも、この録音で講師は「記憶をゆがめる、捻じ曲げる」と言っています。この講演自体、ある集団が政治的な意図をもって社会の記憶をゆがめることに警告を発したい、という思いを土台としています。

それを「薄れる」としてしまっては、ニュアンスが違います。

複数個所でこのような日本語連語での埋め合わせをしていると、つじつまが合わなくなります。

聞いているひとは、わかろうとして聴きますから、つじつま合わせに苦労することになり…「わかりにくかった」「疲れた」となるのです。

通訳者の仕事は、話し手の心の中の風景を聴き手の心の中になるべく歪めず(!)に再現すること。前もってきちんと修行していれば、少しも疲れる仕事ではありません。

通訳道場★横浜CATS、第5期は5月から

 

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オバマ大統領広島演説⑪-わかるってどういうこと?

ぬか漬けと味噌汁じゃなくてトーストとバター

ラスト2回となりました。えんえん続けたあげく、ふと思い浮かぶのはとてもシンプルなこと。「わかるって映像が湧きあがること」。聴いてもさっぱり絵が浮かばない通訳を「通訳だから仕方ない」とあきらめることはありません。しっかり聴けば通訳者の頭の中に精確な絵が浮かぶ。その絵を語ればよいのです。一語一語、訳語の根拠を原語の表現で理由付けできることが必須条件ですが。「ニュアンス」「言わんとすること」といったひとりよがりになりがちな指標(もどき)とはちがいます。カメラのパラメーターに似ています。

このくだり、さすがです。政治学的な平和の定義なんかしても何も動かない、残らない。オバマ大統領は誰もが思い浮かべられる日常の風景を次々と聴き手に思い起こさせ、平和の印象をしっかり残します。これはリンカーン大統領のゲティスバーグ演説にはあまりない一面です。

The irreducible worth of every person, the insistence that every life is precious; the radical and necessary notion that we are part of a single human family -– that is the story that we all must tell.

That is why we come to Hiroshima.  So that we might think of people we love — the first smile from our children in the morning; the gentle touch from a spouse over the kitchen table; the comforting embrace of a parent –- we can think of those things and know that those same precious moments took place here seventy-one years ago.  Those who died -– they are like us.  Ordinary people understand this, I think. They do not want more war. They would rather that the wonders of science be focused on improving life, and not eliminating it.

私の中身は意外と日本のおじいちゃん。「食卓をはさむ無伴侶の~」のくだりは「黙って食え!」とちと赤面。でもなんだかトーストやバターの薫りがしてきました。ぬか漬けと味噌汁ではありませんねえ。

何度か録音しなおした盲点 this とthat

意外と手を焼いたのがthatです。勢いから「これが!」と言いたくなってしまうのです。でもthisではありません。thisは手をのばして触れられるマイ空間のなか。その外は宇宙の果てまでthat。オバマさんもthatで、「みんな、あれだよ!」と夜空の星を指すように共に目指す物語を示しておいでなのですね。

さて、次回でこの演説は最後です。もし「これをやってみて…!」という素材がありましたらお知らせください。

急に冷え込みました。どうぞ暖かくしてお元気で。

オンライン参加もOKです。
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オバマ大統領広島演説⑨-生同通が減ったわけ

このごろテレビで「同時通訳」のテロップを見かけなくなったと思いませんか?

専門分野の学会では会議通訳として同時通訳が入ることはよくあります。専門分野ですから話題にも限りがあって十分対応できます。レトリックもそれほど複雑ではありません。

ところがテレビはどうでしょう。大谷君が二刀流で新人王、アメリカ国境で移民がもめごと、スーチーさんがロヒンギャ問題で…などなど多岐にわたります。準備しようがない緊急事態もあります。

以前、イラク戦争開戦時、イギリスのブレア首相(当時)に記者が「お友達のドミニク君に何て言うの?」と尋ねたことがありました。あたかも行動を共にするかのようだったフランスにどう説明するの、とドミニク・ドビルパン外相(当時)の名前を持ち出して質問したのです。英仏の連携の稚拙さを揶揄する意図もあってのことでしょう。

で、TVの通訳さん、止まってしまったのです。関係諸国の関係はもちろん、閣僚をフルネームで覚えておけば対応できたでしょうけれど。

大統領演説ともなればレトリックも凝っています。多くの人の心に響くよう、たとえも多様です。

これを生同時通訳するのは至難のわざです。

今は各テレビ局で同時通訳をつけ、その後新聞各紙が翻訳を出しています。それぞれに良いところもあれば、残念なところもあります。(YouTubeで視聴できる例:FNNSlineの動画はこちら 今日の分は14:20ぐらいから)

ただ、大統領演説です。超プロのスピーチライター集団と大統領自身の努力を考えれば、「すべて良し」でなくてはもったいない。

私が大統領だったら、事前にプロの同時通訳の録音、プロの翻訳者による和訳を準備させます。あるいは各国の外務省に原稿を送り、同じことを依頼します(こっちのほうが安上がりだ)。

翻訳は太陽光を分光するのに似ています。青が強い訳、赤が強い訳…いろいろあればあるほどもとの光に近くなる(といいんだけど)。

ただ、大統領演説くらいは公式訳が準備されていいのでは、と思います。

トランプさんはまあいいか。

私が生同通を依頼されたら?まずは上記の通り事前対処を打診します。不可能な理由に納得出来て、ほかに誰もいなかったらお受けするかもしれません。エージェントには入っていないので、まずそんな声はかからないと思うけれど。

でもね、できないことをできないと認識するのって大事ですよ。できてないことがわからない、できた気になってしまうのはアマチュアだからね。

今日のところはこちら。reimagine「再び思い描く」が新鮮です。

We must change our mindset about war itself –- to prevent conflict through diplomacy, and strive to end conflicts after they’ve begun; to see our growing interdependence as a cause for peaceful cooperation and not violent competition; to define our nations not by our capacity to destroy, but by what we build.

And perhaps above all, we must reimagine our connection to one another as members of one human race.  For this, too, is what makes our species unique.  We’re not bound by genetic code to repeat the mistakes of the past.  We can learn.  We can choose. We can tell our children a different story –- one that describes a common humanity; one that makes war less likely and cruelty less easily accepted.

同時通訳は日ごろのこまやかな仕込みがものをいいます。

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オバマ大統領広島演説⑧-「逃げるは…役に立つ!」

同時通訳の自主練におすすめの方法!

通訳に詳しい方にご質問いただきました。「冠木さんのオバマ大統領通訳は同通ですか?放送通訳ですか?」おお、するどい。ぶっつけ本番1回限りの同通とは違います。録画の7倍の時間でスクリプトを作ってそれを読み上げアテレコ放送通訳とも違います。

まず英日の語源、引用をさかのぼって何通りも訳を用意します。ビデオを再生しながら何回か試します。

そして!用意した訳をえいっと全部後ろにほっぽりなげてビデオ再生&録音。ほっぽりなげた言葉の中から何が蘇ってくるかは耳だけが知っている、という境地です。

贅沢な同通とでも申しましょうか。

なにごとも練習と本番のバランスが大事。練習だけでも本番だけでも独りよがりになりがちです。私はこの練習法が「突貫工事」になりがちな同時通訳に余裕を生むと感じています。通訳者のみなさん、おすすめですよ。

さていよいよキーフレーズの登場です。新聞各紙でもサブタイトルに引用されたあの一節。「恐怖の論理を逃れ…escape the logic or terror」の部分です。まあ、ひとまずさらっとどうぞ。

Still, every act of aggression between nations; every act of terror and corruption and cruelty and oppression that we see around the world shows our work is never done. We may not be able to eliminate man’s capacity to do evil, so nations –- and the alliances that we’ve formed -– must possess the means to defend ourselves. But among those nations like my own that hold nuclear stockpiles, we must have the courage to escape the logic of fear, and pursue a world without them.

We may not realize this goal in my lifetime. But persistent effort can roll back the possibility of catastrophe. We can chart a course that leads to the destruction of these stockpiles. We can stop the spread to new nations, and secure deadly materials from fanatics.

「恐怖の論理を逃れる、脱する」の新しさをコロケーションで

この演説のキーフレーズともいえるescape the logic of terror。「恐怖の論理を逃れる、脱する」で訳としては〇です。でもちょっと待って。何か気になりませんか。logicとescapeという組み合わせ、見たことがない気がするのです。

そこで使うのがコロケーション辞典。連語辞典とも言われます。セットで使われる言葉を調べるのに重宝です。たとえば、日本語では「涙」を「流す」とセットにしますが、tearとセットになるのはflowよりshedです。

さて、logicの前に来る動詞は肯定的なものだと…apply, use, accept, follow, seeなど。否定的な意味でもdefy(抗う), challenge(挑む), question(疑う)など「真正面から対決」するニュアンスの動詞が挙げられています。

一方、escape=ex(外へ)+cap(頭のかぶりもの)=外套を脱ぎ捨て逃げる、です。対決する気は全然ありません。

これは面白い。

恐怖の論理を「克服すべき敵として対決」するのではありません。仮に恐怖の論理がこちらを敵としてやっつけようとしても「あれれ?あいつらどこいったんだ?」となり戦いが成立しない、という構図でしょうか。

さて、核兵器をめぐってそんなうまいことができるのでしょうか。

脱走の目的地をもっと鮮やかに思い描きたいものです。ふと、ロトの妻を思い出しました。

(ロトの妻は堕落したソドムの町を脱出する際、天使の「振り向くな」という戒めをうっかり破り、塩の柱になったというお話。創世記19章)

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オバマ大統領広島演説⑦-complacencyどう訳す?

Complacentな茹でガエル?

イギリスに留学してすぐあちこちでこんなふうに耳にした言葉、complacent.

「イギリス人はcomplacentになりがちだから、気をつけなくちゃね。」
「いやねえ、イギリス人ってcomplacentで。」

ラテン語源的にはcom(強意)+placent(喜び、喜ぶ)でおおいに結構な感じですが、実は「ちんまり満足している場合じゃないときに外を見ず、内向きに満足しちゃう」態度を戒めて使う言葉です。

この言葉をオバマ大統領が使っています。「45年8月6日の朝を想い起すことで鵜我々はcomplacencyと戦える」の一節です。

とっさに思い浮かんだ訳語は「茹でガエル」です。いまもイメージはピッタリだと思います。でも、いくらなんでもねえ、フォーマル度、オフィシャル度がずれてます。

ううむ。「現状肯定」「自己満足」「独りよがり」「周りに関心を寄せない」「周りが見えてない」「内向き」「いつかまずいことになる」やっぱり茹でガエル。

現状肯定、自己満足だけでは「それじゃまずいよ!」のニュアンスが落ちます。日本語では「知足」という語もありますしね。

こういうときは因数分解(数学的には違うかな?)あるいは分身の術。

形容詞+名詞=「おろかな+現状満足」としてみました。(やっぱり茹でガエルが気に入っているのだけど。)

よく英語1語を日本語1語に訳すものと思い込んでいる人が、こういうやり方を「言葉を足している」と誤解します。違います。ピンク=赤+白のようなものです。もともとない色をお節介で足すのとは全く違います。

Someday the voices of the hibakusha will no longer be with us to bear witness.  But the memory of the morning of August 6th, 1945 must never fade.  That memory allows us to fight complacency.  It fuels our moral imagination.  It allows us to change.

And since that fateful day, we have made choices that give us hope.  The United States and Japan forged not only an alliance, but a friendship that has won far more for our people than we could ever claim through war.  The nations of Europe built a Union that replaced battlefields with bonds of commerce and democracy.  Oppressed peoples and nations won liberation.  An international community established institutions and treaties that worked to avoid war and aspire to restrict and roll back, and ultimately eliminate the existence of nuclear weapons.

メディアはオバマ大統領の「complacency」をどう訳したか。

まずは産経さん。
「しかし1945年8月6日の朝の記憶は決して風化させてはならない。記憶はわれわれの想像力を養い、われわれを変えさせてくれる。」

ありゃ?見当たりません。

ハフポストさん。

「いつの日か、証言する被爆者の声が私たちのもとに届かなくなるでしょう。しかし、1945年8月6日の朝の記憶を決して薄れさせてはなりません。その記憶があれば、私たちは現状肯定と戦えるのです。その記憶があれば、私たちの道徳的な想像力をかき立てるのです。その記憶があれば、変化できるのです。」

「現状肯定」なんですね。外を見てない感じ、現状誤認の茹でガエルのニュアンスがあるといいですね。

英語の先生もがんばっていますね。あるヘルプサイトの方です。

「いつか証言する被爆者の声は私たちのもとからいなくなってしまうでしょう。しかし、1945年8月6日の朝のあの記憶を決して薄れさせてはいけません。その記憶は、私たちを油断と闘わせてくれます。その記憶は私たちの道徳的な想像をかき立てます。その記憶は私たちを変わらせてくれるのです。」

「油断」ですね。この方は辞書を引きまくるのではなく、ご自分で想像して言葉を探されたのでは、と思います。

好ましい努力の跡を見つけると、嬉しくなるものです。

12月15日開催【女性のための錆びついた英語を磨く科学的独学法セミナー】

 

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