オバマ大統領広島演説⑪-わかるってどういうこと?

ぬか漬けと味噌汁じゃなくてトーストとバター

ラスト2回となりました。えんえん続けたあげく、ふと思い浮かぶのはとてもシンプルなこと。「わかるって映像が湧きあがること」。聴いてもさっぱり絵が浮かばない通訳を「通訳だから仕方ない」とあきらめることはありません。しっかり聴けば通訳者の頭の中に精確な絵が浮かぶ。その絵を語ればよいのです。一語一語、訳語の根拠を原語の表現で理由付けできることが必須条件ですが。「ニュアンス」「言わんとすること」といったひとりよがりになりがちな指標(もどき)とはちがいます。カメラのパラメーターに似ています。

このくだり、さすがです。政治学的な平和の定義なんかしても何も動かない、残らない。オバマ大統領は誰もが思い浮かべられる日常の風景を次々と聴き手に思い起こさせ、平和の印象をしっかり残します。これはリンカーン大統領のゲティスバーグ演説にはあまりない一面です。

The irreducible worth of every person, the insistence that every life is precious; the radical and necessary notion that we are part of a single human family -– that is the story that we all must tell.

That is why we come to Hiroshima.  So that we might think of people we love — the first smile from our children in the morning; the gentle touch from a spouse over the kitchen table; the comforting embrace of a parent –- we can think of those things and know that those same precious moments took place here seventy-one years ago.  Those who died -– they are like us.  Ordinary people understand this, I think. They do not want more war. They would rather that the wonders of science be focused on improving life, and not eliminating it.

私の中身は意外と日本のおじいちゃん。「食卓をはさむ無伴侶の~」のくだりは「黙って食え!」とちと赤面。でもなんだかトーストやバターの薫りがしてきました。ぬか漬けと味噌汁ではありませんねえ。

何度か録音しなおした盲点 this とthat

意外と手を焼いたのがthatです。勢いから「これが!」と言いたくなってしまうのです。でもthisではありません。thisは手をのばして触れられるマイ空間のなか。その外は宇宙の果てまでthat。オバマさんもthatで、「みんな、あれだよ!」と夜空の星を指すように共に目指す物語を示しておいでなのですね。

さて、次回でこの演説は最後です。もし「これをやってみて…!」という素材がありましたらお知らせください。

急に冷え込みました。どうぞ暖かくしてお元気で。

オンライン参加もOKです。
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オバマ大統領広島演説⑨-生同通が減ったわけ

このごろテレビで「同時通訳」のテロップを見かけなくなったと思いませんか?

専門分野の学会では会議通訳として同時通訳が入ることはよくあります。専門分野ですから話題にも限りがあって十分対応できます。レトリックもそれほど複雑ではありません。

ところがテレビはどうでしょう。大谷君が二刀流で新人王、アメリカ国境で移民がもめごと、スーチーさんがロヒンギャ問題で…などなど多岐にわたります。準備しようがない緊急事態もあります。

以前、イラク戦争開戦時、イギリスのブレア首相(当時)に記者が「お友達のドミニク君に何て言うの?」と尋ねたことがありました。あたかも行動を共にするかのようだったフランスにどう説明するの、とドミニク・ドビルパン外相(当時)の名前を持ち出して質問したのです。英仏の連携の稚拙さを揶揄する意図もあってのことでしょう。

で、TVの通訳さん、止まってしまったのです。関係諸国の関係はもちろん、閣僚をフルネームで覚えておけば対応できたでしょうけれど。

大統領演説ともなればレトリックも凝っています。多くの人の心に響くよう、たとえも多様です。

これを生同時通訳するのは至難のわざです。

今は各テレビ局で同時通訳をつけ、その後新聞各紙が翻訳を出しています。それぞれに良いところもあれば、残念なところもあります。(YouTubeで視聴できる例:FNNSlineの動画はこちら 今日の分は14:20ぐらいから)

ただ、大統領演説です。超プロのスピーチライター集団と大統領自身の努力を考えれば、「すべて良し」でなくてはもったいない。

私が大統領だったら、事前にプロの同時通訳の録音、プロの翻訳者による和訳を準備させます。あるいは各国の外務省に原稿を送り、同じことを依頼します(こっちのほうが安上がりだ)。

翻訳は太陽光を分光するのに似ています。青が強い訳、赤が強い訳…いろいろあればあるほどもとの光に近くなる(といいんだけど)。

ただ、大統領演説くらいは公式訳が準備されていいのでは、と思います。

トランプさんはまあいいか。

私が生同通を依頼されたら?まずは上記の通り事前対処を打診します。不可能な理由に納得出来て、ほかに誰もいなかったらお受けするかもしれません。エージェントには入っていないので、まずそんな声はかからないと思うけれど。

でもね、できないことをできないと認識するのって大事ですよ。できてないことがわからない、できた気になってしまうのはアマチュアだからね。

今日のところはこちら。reimagine「再び思い描く」が新鮮です。

We must change our mindset about war itself –- to prevent conflict through diplomacy, and strive to end conflicts after they’ve begun; to see our growing interdependence as a cause for peaceful cooperation and not violent competition; to define our nations not by our capacity to destroy, but by what we build.

And perhaps above all, we must reimagine our connection to one another as members of one human race.  For this, too, is what makes our species unique.  We’re not bound by genetic code to repeat the mistakes of the past.  We can learn.  We can choose. We can tell our children a different story –- one that describes a common humanity; one that makes war less likely and cruelty less easily accepted.

同時通訳は日ごろのこまやかな仕込みがものをいいます。

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オバマ大統領広島演説⑧-「逃げるは…役に立つ!」

同時通訳の自主練におすすめの方法!

通訳に詳しい方にご質問いただきました。「冠木さんのオバマ大統領通訳は同通ですか?放送通訳ですか?」おお、するどい。ぶっつけ本番1回限りの同通とは違います。録画の7倍の時間でスクリプトを作ってそれを読み上げアテレコ放送通訳とも違います。

まず英日の語源、引用をさかのぼって何通りも訳を用意します。ビデオを再生しながら何回か試します。

そして!用意した訳をえいっと全部後ろにほっぽりなげてビデオ再生&録音。ほっぽりなげた言葉の中から何が蘇ってくるかは耳だけが知っている、という境地です。

贅沢な同通とでも申しましょうか。

なにごとも練習と本番のバランスが大事。練習だけでも本番だけでも独りよがりになりがちです。私はこの練習法が「突貫工事」になりがちな同時通訳に余裕を生むと感じています。通訳者のみなさん、おすすめですよ。

さていよいよキーフレーズの登場です。新聞各紙でもサブタイトルに引用されたあの一節。「恐怖の論理を逃れ…escape the logic or terror」の部分です。まあ、ひとまずさらっとどうぞ。

Still, every act of aggression between nations; every act of terror and corruption and cruelty and oppression that we see around the world shows our work is never done. We may not be able to eliminate man’s capacity to do evil, so nations –- and the alliances that we’ve formed -– must possess the means to defend ourselves. But among those nations like my own that hold nuclear stockpiles, we must have the courage to escape the logic of fear, and pursue a world without them.

We may not realize this goal in my lifetime. But persistent effort can roll back the possibility of catastrophe. We can chart a course that leads to the destruction of these stockpiles. We can stop the spread to new nations, and secure deadly materials from fanatics.

「恐怖の論理を逃れる、脱する」の新しさをコロケーションで

この演説のキーフレーズともいえるescape the logic of terror。「恐怖の論理を逃れる、脱する」で訳としては〇です。でもちょっと待って。何か気になりませんか。logicとescapeという組み合わせ、見たことがない気がするのです。

そこで使うのがコロケーション辞典。連語辞典とも言われます。セットで使われる言葉を調べるのに重宝です。たとえば、日本語では「涙」を「流す」とセットにしますが、tearとセットになるのはflowよりshedです。

さて、logicの前に来る動詞は肯定的なものだと…apply, use, accept, follow, seeなど。否定的な意味でもdefy(抗う), challenge(挑む), question(疑う)など「真正面から対決」するニュアンスの動詞が挙げられています。

一方、escape=ex(外へ)+cap(頭のかぶりもの)=外套を脱ぎ捨て逃げる、です。対決する気は全然ありません。

これは面白い。

恐怖の論理を「克服すべき敵として対決」するのではありません。仮に恐怖の論理がこちらを敵としてやっつけようとしても「あれれ?あいつらどこいったんだ?」となり戦いが成立しない、という構図でしょうか。

さて、核兵器をめぐってそんなうまいことができるのでしょうか。

脱走の目的地をもっと鮮やかに思い描きたいものです。ふと、ロトの妻を思い出しました。

(ロトの妻は堕落したソドムの町を脱出する際、天使の「振り向くな」という戒めをうっかり破り、塩の柱になったというお話。創世記19章)

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オバマ大統領広島演説⑦-complacencyどう訳す?

Complacentな茹でガエル?

イギリスに留学してすぐあちこちでこんなふうに耳にした言葉、complacent.

「イギリス人はcomplacentになりがちだから、気をつけなくちゃね。」
「いやねえ、イギリス人ってcomplacentで。」

ラテン語源的にはcom(強意)+placent(喜び、喜ぶ)でおおいに結構な感じですが、実は「ちんまり満足している場合じゃないときに外を見ず、内向きに満足しちゃう」態度を戒めて使う言葉です。

この言葉をオバマ大統領が使っています。「45年8月6日の朝を想い起すことで鵜我々はcomplacencyと戦える」の一節です。

とっさに思い浮かんだ訳語は「茹でガエル」です。いまもイメージはピッタリだと思います。でも、いくらなんでもねえ、フォーマル度、オフィシャル度がずれてます。

ううむ。「現状肯定」「自己満足」「独りよがり」「周りに関心を寄せない」「周りが見えてない」「内向き」「いつかまずいことになる」やっぱり茹でガエル。

現状肯定、自己満足だけでは「それじゃまずいよ!」のニュアンスが落ちます。日本語では「知足」という語もありますしね。

こういうときは因数分解(数学的には違うかな?)あるいは分身の術。

形容詞+名詞=「おろかな+現状満足」としてみました。(やっぱり茹でガエルが気に入っているのだけど。)

よく英語1語を日本語1語に訳すものと思い込んでいる人が、こういうやり方を「言葉を足している」と誤解します。違います。ピンク=赤+白のようなものです。もともとない色をお節介で足すのとは全く違います。

Someday the voices of the hibakusha will no longer be with us to bear witness.  But the memory of the morning of August 6th, 1945 must never fade.  That memory allows us to fight complacency.  It fuels our moral imagination.  It allows us to change.

And since that fateful day, we have made choices that give us hope.  The United States and Japan forged not only an alliance, but a friendship that has won far more for our people than we could ever claim through war.  The nations of Europe built a Union that replaced battlefields with bonds of commerce and democracy.  Oppressed peoples and nations won liberation.  An international community established institutions and treaties that worked to avoid war and aspire to restrict and roll back, and ultimately eliminate the existence of nuclear weapons.

メディアはオバマ大統領の「complacency」をどう訳したか。

まずは産経さん。
「しかし1945年8月6日の朝の記憶は決して風化させてはならない。記憶はわれわれの想像力を養い、われわれを変えさせてくれる。」

ありゃ?見当たりません。

ハフポストさん。

「いつの日か、証言する被爆者の声が私たちのもとに届かなくなるでしょう。しかし、1945年8月6日の朝の記憶を決して薄れさせてはなりません。その記憶があれば、私たちは現状肯定と戦えるのです。その記憶があれば、私たちの道徳的な想像力をかき立てるのです。その記憶があれば、変化できるのです。」

「現状肯定」なんですね。外を見てない感じ、現状誤認の茹でガエルのニュアンスがあるといいですね。

英語の先生もがんばっていますね。あるヘルプサイトの方です。

「いつか証言する被爆者の声は私たちのもとからいなくなってしまうでしょう。しかし、1945年8月6日の朝のあの記憶を決して薄れさせてはいけません。その記憶は、私たちを油断と闘わせてくれます。その記憶は私たちの道徳的な想像をかき立てます。その記憶は私たちを変わらせてくれるのです。」

「油断」ですね。この方は辞書を引きまくるのではなく、ご自分で想像して言葉を探されたのでは、と思います。

好ましい努力の跡を見つけると、嬉しくなるものです。

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オバマ大統領広島演説⑥-シンボルを壊さないで

大統領演説はプロのスピーチライター集団と大統領本人が推敲を重ねたもの。少しずつ丁寧に「虫の目」で味わうと興味深いもの。でも長さも相当なので、つい「鳥の目」的な受け取り方をしがちです。メディアは競ってすぐに日本語訳を出さねばならないようで、ちょっとお気の毒です。(後日「虫の目」連載記事も可能なはずですが。)

さて今日のところもさすがです。「想像する」はあいまいに使い回されがちな言葉ですが、ここではリアリティがあります。「子どもたちが目にした光景」「声なき叫びに耳をすませる」など具体的に感覚を呼び起こしているのです。(これを某VAK理論だなどと浮かれるのはお門違い。あれはエセ科学です。)

【冠木同通】(原稿読み上げじゃありません。)

That is why we come to this place. We stand here in the middle of this city and force ourselves to imagine the moment the bomb fell. We force ourselves to feel the dread of children confused by what they see.

We listen to a silent cry. We remember all the innocents killed across the arc of that terrible war, and the wars that came before, and the wars that would follow.

Mere words cannot give voice to such suffering. But we have a shared responsibility to look directly into the eye of history and ask what we must do differently to curb such suffering again.

さて、ここでも「あら?ゲティスバーグ演説みたい!」と思う部分があります。
ゲティスバーグでは…
「ここに集まったのはこの戦地の一片を終の憩いの地として奉献するため」=当初のタスク
「でも真の奉献は戦士たちがすでにやっている。我々の出る幕じゃない」=課題の提起
「我々がすべきことは…」=新たなタスク

オバマさんも…
「ここ広島に集まったのはいろいろ想像するため」=当初のタスク
「それだけじゃ声なき叫びに声を与えられない」=課題の提起
「責任を共有して行動を変えることが大切」=新たなタスク

これから英語スピーチコンテストに出る学生さんも参考にしてみてください?!

ハフポストさん、レトリックやシンボルに気づいていますか?

「私たちは、声なき叫び声に耳を傾けます。私たちは、あの悲惨な戦争が、それ以前に起きた戦争が、それ以後に起きた戦争が進展していく中で殺されたすべての罪なき人々を追悼します。言葉だけでは、こうした苦しみに言葉に表すことはできません。」(ハフポスト)

声は存在感そのものを象徴する語。せっかく「声なき叫び声」とはじめたのに、「言葉だけではこうした苦しみに「言葉に」表すことはできません。」で終わってはもったいない。それにこの訳では「馬から落馬して落っこちた」みたいに「言葉」が出過ぎです。「言葉に表す」ではなく素直に「声を与える」でよいのです。余計なことはしないに限ります。

産経さんも、「声」をいじっています。熟語を因数分解しすぎるとシンボルがくずれます。silent cryが「無言」になっています。ここでは「言葉」がないのではなく、「声」さえ聞こえない、存在が認識されていないのだと思いますが?give voiceが「苦しみを表す」と意訳されていて、声というシンボルが消えています。

「無言の泣き声に耳を澄ませる。われわれはあの恐ろしい戦争やその前の戦争、その後に起きた戦争で殺された全ての罪なき人々に思いをはせる。

単なる言葉でその苦しみを表すことはできない。しかし、われわれは歴史を直視し、そのような苦しみを繰り返さないために何をしなければならないかを問う共通の責任がある。」(産経)

スピーチは語られるもの。堅い書き言葉にすることはないと思います。

シンボルに気づく訳は直訳ではありません。レトリックとスタイルを大切に。
通訳はさかしらな「我」を抑え、すなおに受け止める訓練です。

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オバマ大統領広島演説③-従来型英文和訳の限界は

さて、今日もイメージの順をなるべく守るチャレンジです。

(冠木同通)

The World War that reached its brutal end in Hiroshima and Nagasaki was fought among the wealthiest and most powerful of nations. Their civilizations had given the world great cities and magnificent art. Their thinkers had advanced ideas of justice and harmony and truth, and yet the war grew out of the same base instinct for domination or conquest that had caused conflicts among the simplest tribes, an old pattern amplified by new capabilities and without new constraints.

In the span of a few years some 60 million people would die: men, women, children — no different than us, shot, beaten, marched, bombed, jailed, starved, gassed to death.

 

中高生にイメージの順を守る大切さを話すと「ひっくり返し式でないと先生がテストで〇をくれません。」とこぼします。

気の毒なことに。

語どうしの関係を確かめるなら「この文の主語とその述語を指摘しなさい」などほかの訊き方があるでしょうに。

国民全員がひとつの外国語を必修で何年も履修するという制度自体、ハードとして不自然、非効率的なのですから、せめてソフト的にシンプルで奥深い言葉の世界に心躍る工夫をしてほしいものです。

だいたいね、めんどくさいものはいんちきか半端なんですよ。

たとえば第1文、こんな訳を見かけました。
「広島と長崎で残虐に終わった世界大戦は、もっとも富み、また力強い国々によって戦われました。」

昔式としては〇。間違いではない。でも大してよくもない。単語だけ並べ替えているから。

常に肝に銘じてください。言葉の向ことこちらには人がいる。人は心で生きている。

ことに演説は、集った人々に言葉で訴え、心をあるひとつの方向にそろえるワザ。
そのためには聞いた人の心の中に色つきの映像が立ちのぼらねばなりません。

語順入れ替えは紙芝居の順番入れ替えになりかねません。できあがった日本語で大意は「頭で」理解できても、「心に色つき映像」が浮かびにくくなります。学校時代の英語が嫌いという方たちはまっとうなセンスの持ち主のことがたびたびです。英語がいやだったのではなくて、日本語の変死体に辟易していたのではありませんか?

そうそう、baseを基本的なんて訳してはこれも野暮です。ものごとの土台として不可欠な「基本」なら前向きなニュアンス。ここでは変でしょう。裕福な大国がやらかしたことですよ。辞書もよく読めば「低劣な」「低次の」とあります。「低い」のニュアンスが大切です。

通訳道場★横浜CATS(まもなく更新!) 

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オバマ大統領広島演説①―「細かく見る」同時通訳

通訳道場では演説の原形の一つとしてリンカーン大統領のゲティスバーグ演説を精読、暗誦、通訳を練習しています。練習の段階で歴史、宗教、語源を含め背景を細かく捉えておくことが、やり直しのできない同時通訳の精度向上に役立つからです。

同時通訳ばかり回数を増やしても同時通訳はうまくなりませんからね。イチローもあれほど練習し、日常をコントロールして試合に臨んでいました。凡人の私たちはもっと仕込んで当たり前です。

それに「おおっ」と思える楽しみがあるのです。オバマ大統領の広島演説にはあちこちにゲティスバーグ演説が透けて見えるではありませんか。アメリカの理念を継承する姿勢がにじみ出ています。(トランプさんは…。)

ところが気になることが。

ネット上に公開されている主要メディア、あるいは翻訳者ブログの和訳に共通する「細かさ不足」があったのです。

間違いとまでは言いません。でも写真で言えば思いがけない手振れ、ピンボケ、露出アンダーの類で、気づいていれば別の選択があったのではないでしょうか。

これから少しずつ共通ポイントを指摘してみます。「実際目にした訳例」→「変更案」の順です。

先にこの部分の私の同通をお聞きになりたい方はこちらをどうぞ。
冠木同通①

(著作権蹂躙の意志はまったくありません。問題があればご教示ください。)

Seventy-one years ago, on a bright, cloudless morning, death fell from the sky and the world ①was changed. A flash of light and ②a wall of fire destroyed ③a city and demonstrated that mankind possessed the means to destroy itself.

Why do ④we come to this place, to Hiroshima? We ④come to ponder a terrible force unleashed in a not so distant past. We ④come to mourn the dead, including over 100,000 in Japanese men, women and children; thousands of Koreans; a dozen Americans held prisoner. Their souls speak to us. They ask us to look inward, to take stock of who we are and what ⑤we might become.
(出典:Obamawhitehouse)

①「変わった」→「変えられた」
自らすすんで変わったのではありません。ここは受動態を尊重すべき。We can changeがキーフレーズだったオバマさん(+プロのスピーチライター集団)が受動態を選んでいるのです。わざわざ能動態にする理由は?

ちなみに、ゲティスバーグ演説でも事態を客観的に描写する部分で受動態が目につきます。

②「火柱」「炎」→「壁のような炎」「壁なす炎」
素直に読みましょう。柱と壁は違います。抜かすのもいけません。景色が違ってしまいます。壁のような炎に取り囲まれた人々に思いを致してこそ書けたフレーズと拝察します。わざわざ柱にしたり抜かしたりする理由は?

③「この都市を」「広島を」「この町を」→「ひとつの都市を」「都市をひとつ」
a cityと書いてあります。this city, the city, this town, Hiroshimaのどれでもありません。この段落はまだ一般化された表現で、「閃光と炎の壁が都市をひとつ破壊するなんて!」と思わずことの重大さを想像します。それを早々と特定、具体化する理由は?

④「来ました」→「来る」
have come でもcameでもないのです。現在時制単純形(単純相)は永遠を代表する一片として現在を語ります。反復が前提です。The sun rises in the east.のように。太陽が東から登るのは今日に限ったことではありません。昨日も明日もそうです。そのように、オバマさんも我々が繰り返しここ広島に来て思いを致さなくてはならないことを示唆しているのです。それだけ世界の問題は深刻ですから。

④「何者だったか」→「何者たりうるか」
what we becameとは書いていないんですよね。過去のことではなく、今の、これからの今を生きる人類への死者たちの問いですから。辞書を引くと「形は過去でも現在の推量」なんて一番に出てきます。

言葉は語り手の頭の中に浮かんだ色つきの動画を聴き手の頭の中に復元する魔法の道具。

通翻訳者が、その色付き動画をすみずみまで検証、復元せずに、どうして聴き手、読み手のうちに甦るものでしょう。

通訳道場★横浜CATSはこんなところです。

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大坂なおみ選手、I’m sorry it had to end like this.の訳は?

「大坂なおみ選手のインタビュー記事読んでたんだけど、翻訳に違和感があって。通訳者としてどう思う?」
30年来の友人からメッセージが来ました。日本語と英語両方チェックしてたのですね。さすが。

なんでも、I’m sorry it had to end like this.の出だしが「ごめんなさい。」になっていたとか。

あら、朝日新聞もそう。写真をクリックしてご覧ください。

朝日新聞も「すみません」

あちゃー。

「ごめんなさい、勝ってしまって。」としている訳まであるとか。大坂選手、そんな嫌味を言う人柄とは思えません。

I’m sorry をひとかたまりで「ごめんなさい」と置き換えてはいけません。そんな訳には、大坂選手に倣ってI’m sorry it had to be translated like this.といいたいところ。私、ごめんなさいなんて言ってませんよ。

ものごとは「細かく割って見る」のが大切。カタマリはだめです。球が止まって見える一流選手は時間を細かく割っているといいます。言葉でもその感覚がないと不自由、誤訳のもとです。

sorryはsore痛み+y(形容詞化する語尾)。

喉が痛いのをsore throatと言う、あのsoreです。
ちなみにsoreの語源は古英語のsarig(ほんとはaの上にバー)。

ですから、I’m sorryはそもそも「私は心痛めています。」という意味です。そのあとに心痛める原因、状況が続きます。

たとえば…
「I am sorry a bright student like you have handed in something like this. 残念だね、君のように頭脳明晰な生徒が提出したのがこんなものだとは。」
「We are sorry the typhoon have totally damaged our crop.遺憾なことに、あの台風のせいで作物がみんなやられてしまった。」

I am sorry.が「ごめんなさい」になるのは、後半で言うはずの自分がやらかした失態を省略した場合です。

でも大坂選手は失態をやらかしたわけでも、後半を省略したわけでもありません。

I’m sorry it had to end like this.は「残念です、こんな終わり方になって。」といったところでしょう。

後半の主語をitとしてセリーナも自分も出さず、had to を使っています。誰も責めずに、最少限の語数で最大限の思いを表しています。大坂選手、口数の少なさも魅力です。

「なんだか残念だわ、こんな風に終わることになっちゃうなんて。」でも間違いではないのですが、なんだか同じなおみでも渡辺直美ちゃんぽいです。

「このような終わり方を迎えることとなり、心を痛めています。」となると天皇陛下です。

ひとりひとり、違うのです。

だから通訳者は徹底的に聴きます。翻訳も同じことです。よく聴いてから翻訳すれば、言語を超えても本人の息遣い、声が聞こえてくるものです。

そんなことできる?できます。やっています。そこまでやらないならAIにすべて任せた方がお客様のためです。

通訳道場★横浜CATSはこちら

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the United Nations、連合国、国際連合

国際的な機関と言えば、まず国際連合を思い浮かべます。

ニューヨークの国連本部ビルには参加国の国旗がはためき、国際的な平和と福祉に貢献しているイメージがあります。最近ではSDGsという持続可能な社会実現のためのゴールを設定しました。これを教育、ビジネスの指標として取り入れる学校、企業も少なくありません。

ところで…英語名、the United Nations って訳すと「国際連合」でしょうか?国際連合を英訳するとInternational UnionやInternational Leagueになりませんかね。

そもそもthe United Nations は第二次大戦中の「連合国」。枢軸国に対してトルーマン大統領の呼びかけで集まった国々のこと。国連憲章は1945年6月、つまり日本が降伏する前に批准され、10月に発効。

日本では連合国と国際連合をまるで別の団体のように感じている人が少なくないようです。中国ではそんなことないはずです。だって、国連の中国語ページはこちらですもん。「聯合国」

国連は連合国だから騙されるな、なんていうつもりは全くありません。

外国語では1つの存在なのに、日本語では分身の術を使っている場合があるので関心を持ちましょう、ということです。

その最たるものがnuclearですよ。これは次稿にて。

センチネルのセンスのない通訳者はAIにとってかわられるでしょうね。

通訳道場★横浜CATS第4期 そろそろ日程決定

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トランプ大統領でも言わないでしょう、「効力は今すぐだ」

トランプ大統領が9日にFBIのコミー長官を電撃更迭。コミー長官のロシアに関する調査の進め方に不都合を感じていた、というのが大方の憶測。

同じチョーカンでもこちらのチョーカンには「?」

5月11日朝日新聞の朝刊ではこのことを1面トップにとりあげているのですが…

「効力は今すぐだ」?

「効力は今すぐだ」?
なんだそりゃ。ずっこけた。解熱鎮痛剤の宣伝文句としても今一つしまらない。

「効力は」と結びつくのは「高い、低い」「効力を」なら「発揮する」とか。

だいたいこれは政治、法律の文脈。「効力」は意味が広すぎて脇が甘い。

きっとtake effect immediatelyあたりに手こずっているのだろうと思い、もとのトランプ大統領の手紙を確認しました。

あらまあ、さらにシンプル。effective immediatelyでした。「即刻発効。」
新聞の中見出しならひらがなを残して「今すぐ解任」「ただちに免職」もよいのでは?

ちょいと悪ノリしすぎかもしれませんが、こんな感じかな。

“I have accepted their recommendation and you are hereby terminated and removed from office, effective immediately.”
「私は彼ら(注:司法長官、副長官のこと)の勧めを聞き入れることにした。というわけで君は解任、免職。これ、即刻発効。」

中学生のみなさん、これをパクってパロディ作って楽しんでください。

通訳道場★横浜CATS 第3期開催予定はこちら

 

 

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