「夢を持て」がピンとこないあなたに

持続可能な未来のための通訳者、通訳藝術道場主宰の冠木友紀子です。

私にとって大学での授業は、娘のような世代のひとたちの話を聞く楽しい、楽しいひととき。ところがこのコロナ禍、苦しい胸の内を聴くことも増えました。先週のCAになりたかった学生の次に授業後に残ったのは…

「わたし、先週のCAになりたいっていう○○さんみたいに思ったことがないんです。なりたい職業もないし、なりたい自分も別にない。失う夢もない。こんなの、変ですか?だめですか?どうしたらいいですか?」

あまりに思いつめた様子と裏腹に、彼女のまなざしはワイルド。

brown and gray bird
Photo by Jean van der Meulen on Pexels.com

「そういう自分を責めてるみたいだよね?」
「はい。」

まずそれをやめよう。

人はひとりずつ、植物、動物の1種に相当するくらい違ってる。そういえば蝶々や鳥みたいなお友達、いない?電車の中で秋刀魚や茄子みたいな雰囲気のおじさん見たことない?

見た目だけじゃなくて…本当にひとりひとりOSが違う。

夢を持つことで元気が出る、10年、20年後の自分を思い描くとワクワクする。それならそれでいい。たぶん、今はその路線が本でもセミナーでも売り出しやすいんでしょう。

でもね、これがピンとこない種族だっている。なにより私がそう。

私の感覚は…今どんなにすてきな10年後の自分を想像しても、そんなの未来を今で縛っているだけ。いま手にしていない何かを手にした未来の境地は、今からは想像つかないはず。想像できるとしたら、そんなの一昨日、昨日に実現していたはずの姿。実現が遅れているだけ。遅配の郵便。

あなたはもしかして、初めての街でもどこに郵便局、スーパー、病院、コンビニがあるか、なんとなくわかるんじゃない?初めてのビルでも迷わず最短距離でトイレに行けたりしない?

なら、本能と感覚、直感で今を深く生きるワイルド派。無理やり夢を描いても一時間後には忘れちゃうでしょうよ。

だから、夢を持つ派部族の友達と自分を比べて、あれこれ思いめぐらし、自分を責めるのをおやめなさい。

「じゃあ何したらいいですか。いま、自分の部屋で過ごしてばっかりですけど。」

まあ、このご時世ごもっとも。

2つのことをおすすめします。

ひとつは、自然に身を置くこと。山でも谷でも海でも池?でも結構。ワイルドおばさんの私も人間の想定を超えた場所が居場所として必要。でないと捕獲された狸みたいに目が濁っちゃう。三密なんていまだかつてない低山が近くにたくさんあるでしょう?

もうひとつは、本を読むこと。いろんな人に会って刺激を受ける、っていうけれど、会えるのって生きている人たち。これまで数千年の死んだ人たちとはどう会うの?霊媒?インチキもいるし、高いのもいる。でも、岩波文庫のソクラテスなら数百円で、大学の図書館ならタダ!

くれぐれも、課題図書や先生の推薦図書に縛られませんように。大好きな先生と好きを共有したいならいいけれど。

もっと大事なのは、「呼ばれてる」感覚。あなたを呼んでいると感じる本を手に取って。読んでみて違うな、と思ったらすぐに返せばいい。これを繰り返す。

図書館も山だよ。

silhouette of bird above clouds
Photo by Flo Maderebner on Pexels.com

確かにあなたがCAを夢見ているところはどうしても想像できない。だって、あなたは大鷲だからね。

英語の奥深い美しさに目をみはれば、心の底から勇気と元気が湧いてくるー
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途方もない翻訳を、福島の若い人たちと一緒に完成したい

あなたはどう仕事を決めるの?

小さい頃から憧れていた?よかったね。

なりゆき?家族のため?それもアリだよ。

私?

それが不思議で…振り返れば誰かに導かれていたと思うことばかり。

大方のひとが将来の仕事を決める学生の頃、私はまさか自分が通訳になるとは思っていなかった。当時の通訳は、まあ今でも大方のイメージだけど、才気煥発の女性がブースでヘッドフォンかぶって通訳独特の口調で…。で、通訳でなければ会えないようなすごい人に出会えたって喜んでいて…なんだそりゃ、あなたはすごくないの?みっともない。私には関係ないと思っていた。

でも、就職カタログにあるほかのどの仕事も私の心に響かなかった。すでにカタログに載っている仕事の中に私がやるべきことはない…と思った。

まだ湯気みたいな形ないものを、形にする役目なのかな?そんな気がしていた。

そのころ私が夢中だったのは、言葉の世界をひもとくこと。17世紀の英詩の、一見わけわからない言葉の羅列を丁寧にひらいていくことで、驚くような映画が心に生まれる。それが面白くて1日何時間Oxford English Dictionaryの前で過ごしたことか。言葉という不思議な世界といつも共にいたいと願っていた。一生辞書の前でも幸せだった。

それからいろいろな山谷があって…!!!

なんと今は通訳になって、通訳を教えている。
「こんなに四角くも丸くもない通訳ってできるんだ」
「なんだかこんなのは初めて聞いたけど、これが本来の通訳。」
そんなふうに言ってもらうたびに嬉しい。

そしてびっくりした。25年ぶりに相馬にゆかりの深い恩師、齋藤和明先生による「楽園失われて」。なんと、いまの私の通訳の軸、従来の通訳養成には見当たらない軸がすでにここにあったのです!

日本では「失楽園」として知られるミルトンのParadise Lost。でも先生は「楽園失われて」とイメージの順のまま。学生時代は、先生の訳はのんびりして先生らしいけれど、なんだかおかしいなあ、と思ったくらい。イメージの順を狂わせることがどれほど情報を、映像をゆがめるか、痛感したのはずっとあと。世の通訳、翻訳にふれておやおやまあまあと思ってからのこと。

改めて読むと「音声を文法(カメラ設定)に基づいてイメージに置き換える」「イメージの順を最大限守って訳す」そのもの。

Of man’s first disobedience, and the fruit

Of that forbidden tree, whose mortal taste

Brought death into the world, and all our woe,

With loss of Eden till one greater man

Restore us and regain the blissful seat,

Sing heavenly Muse that on the secret top Of Oreb, or of Sinai didst inspire

That shepherd, who first taught the chosen seed,

In the beginning how the heavens and earth

Rose out of chaos:

 

 

どうか、ひとの初めての服従拒絶の心について、あの果実について

戒められたあの木の過日味わう静べきものの、致死の、行為が

この世に資、そして我らの苦しみ悲しみのすべてをもたらし、

イーデンをも失わせ、だがうあがて一人の大いなるひと、われらを

かつてのわれらに再生させ、この上ない喜びの座を再獲得するが、

歌ってくれ、どうか、これらのことについて、天の詩神よ。あなたは

孤高の山ホウレブ、またはサーイナイの頂で、むかし

あの羊飼いに霊感を吹き込んだ方。その羊飼いとは

選ばれた種族に、始めに天と地、いかに混沌より現れ出でたかを

初めて教えたそのひとだが…

(ミルトン「楽園失われて」巻一、巻二 齋藤和明訳 国際基督教大学学報 人文科学研究より

和明先生のたまわく。

この詩の詩調は、英詩の英雄詩体である。脚韻は用いていない。…中略…実は、われわれの英語で書かれた最もよい悲劇作品も、以前から脚韻を使っていない。脚韻そのものは、それだけでは、明敏な耳すべてにとって、瑣細なものであり、真の音楽性がもたらす喜びを生まないものだからでさる。音楽性からの喜びは、ふさわしい音調、しかるべき長さの音節、そしてそこに込められている意味が、一行から次の一行へと、それも一様にではなく、引きつがれ伸び広がってうくことに存在するので、それ以外にはない。行の末尾が同じ音を反復させることに存在するものでは決してない。…中略…それゆえ脚韻をここで採用しなかったことは欠陥とみなされるべきではない。むろん低俗な読者には、そう見ててもしかたないが。これはむしろ、あのわずらわしい、現代詩が受けている束縛、つまり脚韻からの自由、英雄詩のために回復された自由の例として、かつて古代には確かにあった自由の例として、しかも英詩の場合では最初の一例として受け取られ評価されるべきものなのである。」

なんだ、私はサイマルやNHKの先を一人で走っているつもりだったけれど、ずっと前に出会っていたんだ。

困ったことに和明先生は12巻中、6巻以降の訳を残してご帰天。

途方もないことを想っています。和明先生の心のふるさとは相馬。和明先生の恩師斉藤勇先生のふるさとは福島。だから私は福島に学恩があります。福島の若い人たちとこの続きをやりたい。これは途方もないこと。歴史、宗教、語法…通翻訳技術…一気にとりくむことになる。

でもね、こういうことのほうが、明日役に立って明後日だめになるようなことに血道を上げるより、よっぽど力になるんですよ。あとに残せるんですよ。

福島の人たちは「までい」な仕事をする。その「までい」さを活かして、売ってもなくならないもの=通訳、翻訳を売る道もあるよ、と若い人たちに伝えたい。

というわけで、言葉の世界に魅了されながら、現行のカタログに満足がいかない福島の若い人に会いたいです!Oxford English Dictionaryのある図書館で逢いましょう!どこかな?

ぜんぶで30巻あまり…

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英文科卒が英語関係の就職にこだわるより大事なこと

「英文科卒業するので、TOEICもっとがんばって、やっぱり英語関係の仕事かな、と思うんですけど」

何年か前のこと。なんとなく就職の話になった3年生のRさん。にこにこしているけどどこか無理している感じ。ふと眼差しが陰りました。

―それ、あなたの心の声?
「やっぱり英文科だし。」
―あなたの声か、誰かを気にしてるのか訊いてるの。
「え…」
―お家のかた?
「あ…」
―そう期待されてるの?
「いえ、そんなことはないです。でも私立に通わせてもらって英文科出るのに英語を活かした仕事じゃないと、学費が無駄になっちゃうというか、恩返しできないというか…申し訳なくて。」
―そう言われたわけじゃないんでしょ。
「はい。」
―お家の方はあなたがそう思っていることをご存知?
「いいえ、たぶん知りません。」

おいおい。

 

私があなたのお母さんだったら何を願うかな?
仕事の世界ではあなたはまだ赤ちゃん。でもどんどん自分の手を離れていく…。 

幸せでいてくれますように。

つまり…
夜はぐっすり眠れますように。
ごはんをおいしく食べられますように。
ご一緒させていただく方々とお互いを大切にできますように。

私という避難所を覚えていてくれますように。

他に何がある? 

確かにお母さん世代は時代遅れなこと、細かいことも言うかも。大企業がいいとか、給料はいくらとか、保険や年金とか(病気になるために生きてるのかね)。そりゃそうだ、心配だもの。 でもそれは表面的なこと。

心の奥ではあなたの幸せを一番に願っているはず。

そうでなけりゃそれはそのとき(!)。本気で愚痴りにいらっしゃい。

英文科どうのこうのは大したことじゃない。過去の足し算で今の自分を縛らないで。それじゃ未来がいびつになる。 

まあ、ほんとに社内通訳・翻訳レベルのスペシャリストとして就職したくてしょうがないなら話は別。まだまだインプットが圧倒的に足りないし、あなたは余力がある。TOEICの針なんか振り切って。

じゃ、その折は虎の穴で。

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